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05  早く取り下げて!

 次の日は休日でいつもは弟のショーンと遊んでやるのだが、さすがにそういう気にはなれない。


 体中が痛くて動けないというのもあったが、けっこう、真剣に自分の将来のことを考えた。


 王子とああいうことがあったので、結婚は面倒だと思う。

 名門貴族ほど処女性にこだわるからだ。


 それは生まれてくる子が本当にその家の子かどうかということに関わって来るので、致し方の無い事なのかもしれない。どこの家も貞操観念の薄い嫁はいやがる。


 しかし、シャロンには有り余る魔力量がある。残念ながらコントロールはにがてだが、知識はあるので、魔法省で働けないだろうか?

 幸いこの国では魔法師などの職に就く女性も多く、門戸が開かれている。


 シャロンはここで初めて結婚以外の未来の選択肢を考えた。思えば、前世は病弱でおしゃれどころではなく、乙女ゲームだけが楽しみだった。だが、今は健康で恵まれている。


 見た目は氷のように冷たいが、美しく成績もそこそこによい。マナーも完璧で、断罪さえなければ、いいことずくめだ、多分……。


 シャロンは自分の将来が開けた気になった。



 ♢


 翌日も学園の休みで、サロンでぼうっとしていると父がやって来た。


 昨夜遅く帰ったのを心配していたようだ。


「何もありませんよ。少しはめをはずしてしまいました」

 外したくて外したわけではない。


「実はお前に話があってな。ユリウス殿下のことなのだが、王家からなかなか色よい返事が来なくてね」


「はい?」

 意味が分からなくて首を傾げた。


「ほら、お前が言っていただろう。殿下と婚約したいと、それで申し込んだが半年すぎても返事がなくてね。前回申し込んだときはまだ時期尚早とすぐに断られたのだが今回はなしのつぶてでね」


 そういえば、そんなことを父に頼んでいたと思いだした。王家を通して殿下に結婚を申し込んでのらりくらりと断られるなど日常茶飯事なのですっかり忘れていた。これで何回目だろう。


 王子にも好かれていないし、王妃にははっきりと嫌われている。国王に至っては実務はそれなりに出来る人らしいが、ただの女好きだからよくわからない。そのため王族の妃になりたいのなら、王妃を射止めよとも言われている。


「お父様その件でしたら、出来るだけ早く取り下げてください! すっかり忘れていました」


 慌てて断った。ユリウスにははっきり断っているのに、こちらが申し込んだままでいたら世話はない。


 通常この国の王子は自分の意志では婚約者を決められないが、乙女ゲームのシナリオだと、彼はこの後シャロンと婚約破棄し、光の乙女ララを選ぶことになる。


 そう本当ならば、シャロンはもうすぐ彼の婚約者になるはずなのだ。婚約破棄されるためだけに……。


「いいのか? シャロン。あれほど、好いていたのに」

 そんなふうに言われると恥ずかしい。


「お父様、あれは熱病のようなものです。すっかり、冷めてしまいました。多分絶対に婚約することはないと思います。王妃陛下にもきらわれておりますしね」

 すると父は力強く頷いた。


「実は私も腹に据えかねていてね。お前のような才色兼備な娘との婚約を断り続けるとは何様だと思っていたのだ」


「まあ、お父様・・・」

 あなたがそんなだから、あなたの娘は自分が一番美しくて優秀などと勘違いしてしまったのですよという言葉はのみ込む。今世の父もいい人だ。母は早くに亡くなってしまったが、とても良い人で弟も可愛い。本当に家族には恵まれている。だから、絶対に守らなくては。


「わかった、即刻取り下げて来る」

 父が元気よく席を立つ。


「よろしくお願いします。お父様、お仕事あまり無理をなさらないでくださいね」


「ありがとう、シャロン。お前はこんなにいい子なのに、お前の良さが分からない王妃陛下のお気持ちもユリウス殿下のお気持ちも分からないよ」


 というと父は涙ぐんで喜んだ。完全なる親ばかだ。最近の父は、外では変わらずいかめしいのに家では妙に涙もろい。年だろうか? 結婚は出来なさそうだが、親孝行しなければとシャロンは思う。





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