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25 悪役令嬢たるゆえん~やっぱり過去に悪事をはたらいていました

 結局ユリウスと話し合いの末、週に二回、彼と昼食を共にすることになった。最初は毎日と言われ本格的に修道院へ入ろうかと悩んでいると、二日でいいと言ってくれた。


 毎日、ララやあの攻略者および、取り巻き達と食事をするなど気が重いし、それこそ登校拒否になりそうだ。結構学園生活を楽しんでいたのに。ユリウスを恨まずにはいられない。


 彼は絶対に守るといってくれたが、どう考えても家臣であるシャロンが彼の盾になるしかない。王家に忠誠を誓っている貴族家の娘ならば、この国では当然のことなのだ。


 良い考えも浮かばないので、その日はお気に入りの香油を湯に垂らし、キャンドルをつけて風呂に入った。揺れる火影に癒される。

「なんで、潰しても潰してもフラグが立ち上がるのかしら?」


 考えても答えはでないので、さっさと眠ることにした。



 ♢



 次の日の昼休み、久しぶりに豪華な食堂に入った。地下に慣れてしまったせいかガラス細工や陶器の装飾が眩しい。そのなかをユリウスにエスコートされて奥へと連れて行かれる。


「さあ、どうぞ」


 案内されたのは個室だった。ひいてくれた椅子に座ると前菜が運ばれてきた。


「あの」

 シャロンは広いテーブルを見回した。


「何?」

 目の前に座るユリウスが首を傾げる。艶やかな金髪がさらりと揺れた。


「他の方々は?」

「二人だけだと言ったろう? じゃなければ意味がないではないか」


 なるほど、二人だけで個室で食事をしていれば、何もなくとも皆が勝手に誤解をしてくれるわけかと今更ながら感心した。


 一見、華やかで典型的な王子様だが、意外に計算高いようだ。やっぱり怖い。シャロンは子供の頃、一時期彼と仲良くしていたが、その後はそれほどよく知らない。 


 特段、ユリウスといても話すことなどなく、彼もそれは同じようで水を打ったような静けさの中で食事は粛々と進んだ。


 そこでこれは罠ではないかとシャロンは気付いた。

「あの、この状況で殿下が毒を盛られたら、もれなく私のせいになりませんか?」


 すると給仕の動きがぴたりと止まり、場に緊張が走る。


「お前は食事中になんてことを言うんだ」

 ユリウスは微かに顔をしかめた。


「二人きりだとより疑われるリスクが増すというか」

 やはり、ダイレクトに身の危険を感じる。個室となると何か対策が必要かもしれない。


「だから、私はシャロンの事は疑っていないと言っているだろう。何回言えば分かるんだ」


「できれば、それ、来年の学園主催の舞踏会で言ってください」

「何なんだそれは? また、この間いっていた世迷いごとか」


 呆れたように言う。この人は信用していると口では言うくせに、シャロンの言うことをまったく信じてくれない。


「それで殿下思ったのですが、私のお友達と殿下のお友達をこの食事会に招待してはどうでしょう? それで、二人が仲良くしている様子を見せれば噂が速やかに広まるのではないでしょうか?」


「二人きりでなければ意味がない」


 イライラしてきたようでユリウスは微かに眉根を寄せる。


「それにお前の友達とは以前からいる取り巻きか?」


 そんな時期もあったが、もう少し言葉を選んでほしいと思う。


「今お昼を一緒に食べている友人です」

 シャロンは言いなおした。


「そういえばマナークラスで最近よく行動を共にしている女生徒達がいたな。まさか彼女たちも地下食堂に」

 

 シャロンは驚きのあまり、噛まずに肉を飲み込みむせてしまった。


「ど、どうしてそのことをご存じなのですか!」

「別に驚くほどのことでもないだろう」

 

 まさか悪目立ちしているのだろうかと、ちょっとドキドキするが、ユリウスは澄ましている。


「ええっと、イザベラ様のグループが分裂したようで、彼女たちも地下食堂へ来るようになりました」


「グループが分裂したも何もシャロンが抜けたからだろう。他人事のように言っているが、元はお前が中心になっていたグループじゃないか」


 意外によく見ている。


「はい、これからは付き合う友達を選ぼうかと思います」

「ふーん、とりあえず、友人を呼ぶというのは却下。私とお前が付き合っていないと言うのがバレてしまうだろう」

 

 つまり人前でべたべたする気はないようだ。


「わかりました」


 シャロンはユリウスを特別綺麗な置物だと思うことにした。


 そして思う。彼はいつからシャロンを「お前」と呼ぶようになったのかと……。つい最近まで君だったような気がするし、「ソレイユ嬢」と呼んでいたし、以前より確実に馴れ馴れしい。


「それで、お前は放課後、何をしているんだ」

 このように質問なども実に不躾だ。プライベートなど放って置いてほしい。


「時々友達とカフェに行くくらいで、あとは図書館で勉強しています」

 別段隠すようなこともないのですらすらと答える。


「茶会は開いていないんだな」

「はい、まあ、皆さんの本音を聞ける機会がありましたので」

「それはどういう?」

 不思議そうに小首を傾げる。


「殿方には関係ない事でございます」

 触れられたくないので、ぴしゃりと言うとユリウスが目を眇め。


「ほう、聞くが、どうしてお前は突然、私達と食事を一緒にしなくなったんだ」

「それは殿下が距離をおこうとおっしゃったから」

「あれはどう考えても、変装して私の後をつけてきて、不審者として護衛に捕まったお前が悪い」


 恥ずかしい過去を掘り起こされてしまった。ララとの仲を勘ぐってつい彼の後をつけ回してしまったのだ。完全なる藪蛇。


 一歩離れて少し冷静になった今なら分かる。婚約者のいない彼はどの令嬢とも適切な距離をとっていたのに、ララと話しながら微笑んでいる姿をみると、彼女とだけ特別親しいような気がして、どうにも嫉妬が抑えられなかった。


 ララもララで要領がいいのか、いつも上手に彼の隣に行く。見るたびにイライラし、ストレスをためていた。


 なんといってもララは王妃が決めたご学友の中で唯一の女性なのだから、自然といつも彼のそばにいる女生徒はララだけになるのは当然のことだった。



 シャロンは不審者として護衛に捕らえられた後、危うく牢屋に入れられそうになったが、ユリウスが気付き「彼女は侯爵家の令嬢で友人だからやめて」と止めてくれた。


 あの時は恥ずかしくて絶対にバレないようにと顔が見えないように隠していた。 

 そして、一緒にいたパトリックとロイがその事実を知り、彼らの態度が更に冷たくなったのは言うまでもない。



 その後、迎えに来た父のダリルは各方面に頭を下げて回ったのだ。完全なる黒歴史。穴があったら入りたい。


 父はあの時、「早くに母であるオリヴィアが亡くなってしまったから、お前も寂しかったのだろう。ショーンの母親代わりをさせてすまないね」と涙ながらにシャロンに謝った。謝らなければならないのはシャロンの方なのに……。父も愛妻を亡くしてずっと寂しかったのだ。

 そしてこれからの人生親孝行につとめたい。


(お父様、本当にごめんなさい)



 するとそこで、ユリウスに対して謝罪がまだだったと、とんでもない事実を思い出し、シャロンは今更ながら青くなった。


 これではすでにシャロンに謝りにきたニックの方がましだ。


 冤罪は酷いと思うが、なぜ自分が皆の前で断罪されるはめに陥ったのか分かる気がしてぞくりと寒気がした。

 

 前世を思い出さなければ、あのまま自分は間違っていないとばかりに突き進んでいたのだろうか?

 これでは被害妄想の加害者ではないか。


「いえ、あのその件は、たいへん申し訳なく……というか、殿下今更ですが、申し訳あ……」

 

 シャロンが慌てて頭を下げようとすると、ユリウスに途中で止められた。


「いいよ、別に。私の言い方も態度も悪かったんだろう。そんな事より、距離をおこうと話したのは、三月(みつき)も前の話だ。それなのに舞踏会の一週間くらい前から突然私を避けだした。お前はたいていブラットといたし。

 あの舞踏会の日は壁のそばで大人しくしてると思ったら、いきなり突進して来て皿を奪うし、まったく……。本来ならば、お前に問い質したいことがたくさんある」


 恐らくサンドイッチに毒が入っていると言ったことを聞き出したいのだろう。実際毒ではなかったが、薬が盛られていた。本来ならば尋問されてもおかしくない状況。

 


「だから、その、私には未来視の……」

「ストップ、その件はまた別の機会に話そうか。みだりに話さないように」


 と言って彼はちらりと給仕に目をくれる。人前では話すなという事のようだ。


 その後、不自然な沈黙を挟みつつも、当たり障りのない会話をし、昼食は概ね和やかに進んで行った。



 



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