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02 壁の花

 

 よくよく考えてみたら、いくら王子が好きでも結婚したら、それなりにデメリットもある。


 もともとシャロンは王妃に嫌われていた。他の令嬢を見る目とシャロンを見る目が違うのだ。子供の頃から明らかに温度を失った目を向けられている。


 噂に聞いた話では、昔シャロンの父を競ってシャロンの母と王妃はライバル関係にあったらしい。その母ももう儚くなったが。


 現王妃は、女遊びが酷く外に子供を作る国王を厭うているとまことしやかに囁かれている。




 という事で現在、舞踏会の最中、シャロンは壁の花ならず壁に同化する勢いで、王子とララに腹立ちを感じつつも、二人が近づいて行く様子を眺めていた。もう、どうすることも出来ない。



 何に腹が立つかといえば、ユリウスはシャロンの初恋で、いまだに思いの人だということだ。


 今は脈がなくても、結婚さえしてしまえば好きになってもらえると安易に思い込んでいた。滑稽なほど完璧な片思い。


 そのうえ、前世の記憶によると「最推し」というもので……つまり、前世から片思いの相手。


 ゲームのシナリオだとこの先、シャロンは悲願だった王子の婚約者となる。そして婚約破棄からの断罪という奈落に突き落とされるのだ。


 ――なんてひどいの。



 いつもの彼女ならば、ララとユリウスをやっかんでその間に割り込み、己の優秀さをアピールしているところだが、今はやけになって果実水をがぶ飲みするのがせいぜいだ。


 断罪され、処刑されるのは十八歳。あと一年後だ。


 しかし、その刹那ふと何かを忘れているような気がした。とても重要な何か、今後シャロンを破滅への運命に導く何かを・・・・。


「はっ! これはもしかして!」


 王子が断罪の時に言っていたセリフを思い出す。


「貴様は一年前の舞踏会で、ララと私に毒を盛った」


 ユリウスはそう言ってシャロンを断罪したのだ。


 シャロンは王族に毒をもったから、反逆罪とみなされて処刑にされ、関与を疑われたソレイユ家も消えた。


 その毒は何に入っていたといっていた?


 今まさに二人が仲良く一つの皿から食べようとしているサンドイッチだ。


 その瞬間シャロンの脳内に勢いよくアドレナリンが湧きでて、心臓がどっどっどっどと嫌な音を立てる。


「そのサンドイッチ待ったーーっ! 殿下! バンクロフト様! どうかお食べにならないで!」


 令嬢らしからぬ叫び声をあげる。


 二人に手を振り大声で叫ぶも、楽団が奏でる陽気な音楽と笑いさざめく男女の声にかき消された。


 己の生死の瀬戸際だ。マナーなどかまっていられない。


 シャロンはドレスの裾をたくしあげ対角線上のはるか遠くにいる王子とララを目指して、カカカカっとヒールを鳴らして、かけていく。


 この際毒を入れた覚えがまったくない自分が、どうして犯人にされる将来があるのかは考えないことにする。


 人ごみに阻まれながら、きれいに結った髪を振り乱し二人の元へ駆け寄る。


 シャロンはユリウスの手から強奪するようにサンドイッチののった皿を奪い取り、ぜいぜいと肩で息をする。


 ユリウスとララは突然の事で、唖然とした表情でシャロンを見る。


 シャロンの髪は乱れ目は血走り、まるで嫉妬に狂った鬼女のよう。自然と彼らの周りにいる者たちのシャロンに注ぐ視線が冷たくなる。


 しかし、シャロンにとっては今はどう思われようと断罪が回避されれば万々歳だ。


 そしてララはというとサンドイッチを手にしている。


「バンクロフト様それを食べてはなりません」


 とりあげようとするとシャロンより一歩早く王子の手が動く、まるで見せつけるかのようにサンドイッチをぱくりと食べてしまった。


「だめーー!」


 シャロンが叫ぶ横でララが大きな瞳に涙を浮かべる。


「そんな、ひどいですわ。少しユリウス様とお話していただけなのに」


 といってポロリと大粒の涙を流す。もう既に王子に名前よびを許されているだと? 


 ララの涙は効果絶大でユリウスはシャロンが取り上げた皿からサンドイッチを取り上げた。


「ソレイユ侯爵令嬢みっともないぞ。それほど欲しくば、貴様がたべればいいだろう」


 怒気をはらんだ口調で言うとシャロンの口に無理矢理サンドイッチをねじ込んだ。王子のとっさの行動にシャロンの理解が追い付かない。


 吐き出さなければいけないのに、日頃の躾の賜物か、ごくんと毒入りサンドウィッチを飲み込んでしまう。


「ひっ、もぐもぐ。何をするんですかーー! のみこんじゃったじゃないですか!」


 シャロンは涙目で、王子の手を引く。これで死亡フラグを回避するつもりがあらたな死亡フラグが立ってしまった。


「おい、貴様いい加減に!」


 王子がシャロンの手を振りほどこうとするので、慌てて耳打ちをした。


「そのサンドウィッチには毒が仕込んであります! 医師と薬師を呼んで解毒をしてもらいましょう」


 彼はその言葉に一瞬顔色を変える。


「なぜ貴様がそんなことを知っている? もしも、それが私をたばかるものだったら、貴様を絶対に許さない!」


 ――さきほどからずっと貴様呼ばわりなんですが? というかこいつに口の中にサンドウィッチを入れられたんだが? 私の方が断然危ない。


 王族は子供の頃からならされているから、毒には強いがシャロンはそうではない。


 とりあえずユリウスをひきずり王族専用の控室に連れて行く。後ろからララが追って来たが会場を出たところで警備兵に止められていた。


 彼女は男爵令嬢なので、王子の許可がなければこのビップ専用のエリアには入ってこれないし、王子はそこまで気が回らないほど腹をたてている。


「貴様、これが嘘ならば、正式にソレイユ家に抗議させてもらうからな。侯爵家だからと言って、ただですむと思うなよ」

 

とシャロンを脅す。彼を助けようとしているのに本当にやめて欲しい。


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