「お風呂イベントとな!?」
んー、何とか立ち直ってきたかなー?
彼女からの感情が何となく?わかるようになったのだけど、申し訳ない?気持ちばっかりなんだよね。
今も折角の仲良しお風呂イベントだというのに抱きしめている彼女からはネガティブな感情が駄々洩れていた。
先ほども湯船に沈んでしまいそうだったので慌てて引き上げたのだが、なんだか物欲しそうな雰囲気を感じ取ったので今は彼女を抱きしめる形になってる。
うーむ。しかし、原因がわからないからまたネガティブな思考を繰り返す予感がするので私なりに彼女の気持ちを考えてみることにする。
起きてすぐに感じたのは悲しみだと思う。なんでかはよくわからないけど、なんとなく泣いていると感じたから。で、慰めようしたら呻き声しか出せなくなかったんだよね。
さらにあの子は暗くなった感じがした。うまくしゃべれないようなので慰める目的で抱きしめてなでなでしているうちに彼女が落ち着いたっぽいのはいいんだけど、なんだか不満げな感覚?と思われる感覚と共に彼女がこちらに顔を向けてきた。
日本人離れしているはずなのにどこか親しみと愛嬌を持つ顔立ち。物語の絵本から飛び出してきたような可憐さを持っていた。そんな彼女が無表情のままいきなり頬を膨らませてこちらを見ているではないか。
(かわ─死─かわわ─)
死因:可愛すぎで昇天余裕でした。思わず指で頬つついてしまっても無罪を勝ち取る自信はある。というかね、顔が良い娘が無表情で頬を膨らませるのがこれほどやばいとは思わないじゃん!!ゼロ距離だよ!?動いていないはずの心臓さんがハッスルすると思った!!動いてない!!!
それで、ほっぺを突っついたら暴れるほど不機嫌になったようなので彼女を離した。今になって思うけど、初対面なのにがっつきすぎたかもしれない。いや、でも、起きたら美少女が自分の胸に埋めていれば気が動転するのは不可抗力なのだ。はしゃぎすぎたのは申し訳ないけど。
とまぁ、名残惜しくも彼女が起き上がって少ししてから私の聖水が時間経過でアンモニア臭を出していることに気づいたから、なんとかして彼女にアピールして無事にお風呂へ連れて行ってもらうことになった。
そこに至るまでの廊下は何と言えばいいのか、アニメで見たような西洋風な壁だと思いながら、今までの人生で見たことが無い様式は私には物珍しいと感じていた。特に天井に吊るされているランタンに電球が入っていると思っていたけど、よく見ると球体の光が宙に浮かんでいるのが見えた。
風呂場に入る前の着替え場は私の知る物とは大差はなく、脱いだ服を入れるための籠の近くには洗濯機のような四角い箱が置いてあるった。電源コンセントはおろか水栓が無く、代わりに側面には大きな青い宝石のようなものが埋め込まれている。
日本では見慣れないものが日常生活品のように置かれている光景は興味が惹かれるけれど、それよりも今の私にとっては一刻も早く衣服を脱いでお風呂に入りたいという気持ちでいっぱいだ。
しかし、うまく動かない指ではブラウスのボタンをうまく外すことができず、もどかしく感じて引き裂さくしかないかと考えた時、彼女が私の胸元に手を伸ばしてブラウスのボタンをはずしてくれた。
全てはずした後、私のブラジャーを見て彼女から嫉妬の感情をぶつけられた。思わず私も彼女の胸元に視線を動かすが分厚いローブを着ているため断言はできないけど、見た目相応ぐらいだからまだこれからだと思うけどなー。何歳かはわからないからどこまで大きくなるかは知らないけど。
何となく気まずい空気が流れて、彼女から諦めに似た感情が流れてきた後、ぎこちなく腕を動かして着ているローブを脱ごうとしようとしているのだが、先ほどの私と同じようにボタンがうまく外せずに四苦八苦している。うん、かわいい。
ちらりとこちらに縋るような気持ちで視線をよこされてしまったので、思わず吹き出しそうになった。しかし、表情がうまく動かないせいか、笑みは零れずにむせた時のような声と共に鼻から息が漏れる。彼女から疑惑の視線を飛ばされた気がするが気にせずに手を伸ばす。
幸いにも彼女のローブについているボタンは大きく、慎重に手を動かせば外すことは問題にならなった。むしろ、ボタンをはずしていく内に私の中のよからぬものが、ふつふつと湧いてきたのを抑えるほうが大変だった。内なる獣性と理性がせめぎ合いながらも何とかローブのボタンを外して見えた彼女のほっそりとした腰回りに僅かに見えるあばら、不健康そうな肌と合わせて折れてしまいそうなぐらいに儚さが際立つ。そして彼女が気にしたように双丘は私に比べると壁ではないと言い張れる程度のものだった。多分、年齢の差だよ?
つづけて、ローブの下にある衣服を脱がす時は彼女の肌が露わになるたびに鼻血が出そうで出ない感覚に襲われたり、彼女に私の下着を取ってもらう時にイケない気分になったりもした。いや、本当にやばかった。フィクションとかで貴族が美少女に服を着替えてさせてもらうシーンを見たことあるけど、こんな高揚感と背徳感を同時に味わえると知ったらやめられないのも無理はないね!!侍女にしろ貴族にしろどっちもWin-Winじゃん!(偏見)
あ、また彼女から恐怖の感情が漏れ出てる。ワタシコワクナイナイヨ?
そんなこんなでいざ浴室へ!と思ったのがだが、まず目にしたのはこじんまりとした浴槽。次に目にするのは歩いて数歩もしない内にたどり着く壁。要するにどう見ても一人用で、二人で入るにはすごく狭い。思わず私はこれから一緒に入るであろう彼女へと振り向く。え、ここで洗うの?合法?これ合法?洗う時、絶対密着するよね?どんな事故は起きてもしょうがないで済ませてもいいの?
まぁ、即引かれたので大人しくする。とても大人しくすることにする。さすがに飢えている私とて人間だ。多分、まだ。なのでいくら何でも初対面の相手を押し倒したりはしたりしない。好感度を上げるまでは過剰なスキンシップは控えることが大事なことぐらいは判断つく。だから大人しくしていてくれ私の中に潜んでいないケダモノたちよ。
(だから大丈夫だよー私怖くないよー引くのはやめてくださいお願いします。しまいには泣いてしまします。)
私の精一杯の懇願が通じたのか無事に彼女と仲良く浴室へと入ることができた。
うん、そこからの記憶は思い出すとぶり返して興奮してしまうためぼやかしておこう。3つ言えることは、密着洗いっこはやばいこと、ひんやりハンドで現れるとゾクゾクすること、私の理性は何とか踏みとどまったこと。
─そうして彼女と狭い浴槽で身を寄せ合う今に至る。
彼女を包むように抱きしめてからお互い動かないまま視線だけを泳がせているが、呼吸音も心音も無いため、時間が止まったかのような錯覚を感じる。けれど、赤い宝石と青い宝石が埋め込まれている管から出る水音がそれを否定してくれる。
彼女がネガティブに陥っている理由を私が意識を取り戻した後の出来事から考えてみたがやはり、これといったものは思いつかない。私の性癖は関係ないでしょ、多分。となると、考えられることは私が住んでいる日本どころか世界では全く類を見ない生活様式。あとは彼女が噛まれたからこんな体になったことぐらい。
(現実から目をそらしてきたけど、そろそろ受け入れたほうが良いよね)
彼女が落ち込んでいる理由として考えられることは二つある。一つ目は私が故郷に帰ることはできないことを察したこと。湯船に浸かるまでに見てきた光景、地球で文明的な生活をしようものならあるはずのモノが無く、代わりに見たことが無いもので溢れていればすぐにわかる。私は異世界に飛ばされたのだと。
もっとも、こちらは彼女が把握しているかは不明だ。何せ顔を合わせてから言葉を交わすことができていないのだから。この身体になってから驚いても表に出ないし、感情をわかっても何に驚いているのかまでは読めないと思う。
だが、二つ目の、心音がしない身体に関しては言えば別だ。最初は軽く流したが呼吸すら必要でなくなったことに気が付いたあたりでごまかし続けるのは厳しい。こちらもなんてことはない。噛まれてゾンビになっただけだ。
多分、彼女が引きずっているのはこっちだと思う。すぐに見てわかるし。あの娘も同じ状態のまま放置しているし。アンモニア臭でお風呂に入るのだから、治す手段があるのなら何とかしていると思う。
(でも、そうしないということは、治す手立てがないってことだよね。)
狭い浴室の中、湯気で曇る天井を見上げながら家族や今までの告白相手、学校の友達、ついでにアイツの顔が目に浮かべる。あまりにも突然だった。お別れも言えなかった。また会おうねと約束もしていた。楽しみにしていた行事だってあった。でも、誰も見ていないところで私はこの世界に呼び出された。きっと、私は見つかることはない。
仮に帰る手段があったとしても、心音が止まり呻き声を上げる何かになった私をみんなは受け入れるのだろうか、どんな顔で会えばいいのだろうか。少なくとも表情は全く動かないから無表情一択になるのだけれど。というか、こんな危険な状態の私を世界が放っておくはずがないから元の世界に戻ったところで良くて監禁、最悪の場合は世界滅亡のきっかけになりかねない。
(頭ではわかってる。それでも、やっぱりさみしいな。)
幸か不幸か、どうやらこの身体は表情だけでなく泣くことも苦手のようだ。悲しいはずなのに、つらいはずなのに涙は一滴どころか嗚咽すらなかった。やるせなくなった私は目の間にいる彼女に回している腕をさらに強める。
彼女からは驚いたような感情が流れた気がするが、気にしないことにした。目をそらし続けた問題を認識したために、底の無い穴に落ちた時のような恐怖が蘇る。しかし、先に言った通りこの身体は泣くことができないため心の中に澱み続けた。
この腕は私の中にある澱みをどこかに吐き出したくて、誰かにどうにかしてほしくて思わず近くにいる彼女を縋りついてしまう。私よりも一回りほど小さな背中は私の腕に引き寄せられて密着する範囲を広げた。
思ったよりも力を籠めすぎたのか、引き寄せられた彼女はバランスを崩し私にもたれるように体重がかかる。突然のことだったからか彼女の首もまた後ろへと傾き、私と横並びになる位置までそれた。
ちらりと横に視線を向ければ彼女も同じように私に視線を向けている。原理はよくわからないが、おそらく彼女の感情がわかるように、私の感情もまた彼女に伝わっているのだろう。心配している気配がする。思った以上にネガティブになりすぎたか。
見つめ合う私たちの間で交わされる言葉はなく、視線だけで意思疎通をこなすには互いに知らなさすぎる。気づけばお互いが持っていたネガティブな感情は薄れ、相手への興味に変わっていく。きっと絵面的には初々しい恋人のような、熟年夫婦のような二人が延々と見つめ合う光景になっているだろう。夢の見過ぎかと思うけど、現在進行形で夢見ているようなものだから少しくらい盛ってもいいでしょ。
無限に続くように思われた見つめ合いも、不意にザプリと大きな水音を合図に終わりを告げる。湯を注ぎ続ける蛇口から?否、蛇口は先ほどから変わらず緩やかに水音だけを流し続けている。では湯船からお湯があふれた音か?否、私が彼女を抱きしめる力を強める前にあふれ続けている。
ではこの音はどこからか。答えは彼女の腕が大きく動いたためだ。その手の先には私の手首が握られている。ロマンティックな理由があればイベントスチルか何かになっていただろう。残念ながらその手は彼女へスキンシップをしようとした邪な手だ。理性さんもっと頑張って。
おーけー。興奮しすぎて彼女から怒りと侮蔑とわずかに(頭を)心配する気配が漂ってきたので深呼吸して落ち着くことにする。石鹸の香りがした。昂ってきた。秒で彼女の怒りの度合いが深まった。わー人間って表情無くても不快感を示せる器用な生き物なんだー。
(あー痛い。 お湯の温度がわかるから予想ついていたけど、仮称ゾンビでも痛覚はあるんだーすごーく痛い。反射が無いから表に出ないけど痛い。)
この後もしばらく湯船の中で腕を掴まれていた。さすがに調子に乗りすぎた。でも彼女のネガティブループを抑えたからヨシ!
なけなしの書き溜めを消費していますのでそのうち疾走します。
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