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受難 ②

「とりあえず、座って話しませんか?」

 部屋の奥にある、応接用の椅子に陛下を導くと、僕はその対面へ座った。

「え~と、僕と話したかったということだそうですが?」

 昼間お会いしたときは、それほどよく拝見できなかったが、こうして間近で陛下を見ると相当の美しさを備えた女性であることがよく分かる。

 理知的でありながらも、若さがあふれるような顔立ちで、言うなればファンさんとペーリーさんの中間をとったような感じといえば分かりやすいのだろうか

「はい、ご相談といいますか、今から話すことを心に留めていただければと思った次第なのです・・」

 いったい何ごとなのだろうか?一抹の不安はあるものの、僕が「どうぞ」と返事をすると、陛下は口を開いた。

「このミスーレ帝国というのは、元々は君主制であり、皇帝は君主として君臨しているものでした。わたしは両親が事故で亡くなり、若くして皇帝の座についたのですが、この国の難題としてあったのが、魔王の襲撃でした」

「魔物の島が近いからですね?」

「おっしゃる通りです。この国が外部から来る者に対して厳重な検査をするのは、いまのことがあるからなのです」

 なるほど、この国に入るのに検問が厳重であるのはそのせいからか。

「あるとき、大規模な魔物の襲撃があって、ミスーレ帝国は甚大な被害がでました。これでは国の将来が危ないと感じたわたくしは、信頼していた筆頭賢者に相談すると、君主制を廃し、政治を合議制にしたほうがよいと言われ、その通りにしました」

「ですが、それからの筆頭賢者の様子がどうもおかしいのです。政治の欲にかられての変貌というのなら仕方がありませんが、背後でなにかと通じているようなフシもあるのです。もし、よろしければ、その点をご留意下さり明らかにしていただければと思いまして」

 なるほど、陛下は国を案じた上で、僕に相談してきたのか。確かにこの内容では、内部の者には言えないだろう。

 かといって僕では解決するのは難しそうだが、なんとかしてあげたいものだ。

「陛下、お約束はできませんが、もしその賢者殿が、魔の者と通じているのであれば、僕の仲間が気付くと思います。その時は陛下のお耳にそのことを入れる、出来ることはこの程度のことで申し訳ないのですが」

「いえ、それで十分です。なにか、告げ口のようなことをしてしまい、お恥ずかしいのですが、わたくし一人ではどうしようもなく。やはり、ライス様はわたくしが思ったとおりお優しいかただったようで安心しました」

 陛下はホッと胸をなでおろすかのような表情を見せた。

 今日の応接室のソシミール陛下を見る限り、相当抑圧された環境で過ごされていることが容易に感じられ、たぶん本音で話せるような人など周囲にいないのだろうと思われた。 

 なんとも可哀想な気持ちになってしまい、せめてこの場だけでも、話しをして明るい気持ちになってくれればと、お互いの境遇などを話し合った。

 こうして会話をしていると、皇帝という地位にいるものの、楽し気に笑うソシミール陛下は普通の女の子なんだなと思ってしまう。


「ライス様は、どなたか意中の人とか、おありなのかしら?」

 話しの脈略に関係なく、いきなりソシミール陛下から質された。

 えっ!なんだろう急にと思ったが、僕は正直に言った。

「意中なのかどうかは自分でもよくわからないのですが、気になっている女性はいます。僕と一緒のパーティにいる、魔女のファンさんです。最近ですが、彼女のことを好きなのかな~と考える自分がいます」

「・・そうですか、いきなりこんなプライベートなことをお聞きして申し訳ありません。ライス様のような方に、そのように思われてうらやましい限りです・・」

 僕は、陛下の真意が分からず戸惑った。この方はなにを思っているのだろうか?

 だが、そのとき突然、部屋のドアがコンコンとノックされる音が響いてきた。心臓がドキッとして、陛下と顔を見合わせてしまった。

 たぶん、陛下のお付きの者でも、陛下の不在に気がつき探しにきたのではないか、そう思いながら、おそるおそるドアに近づき、部屋の中から「どなたですか?」と声を発した。

 するとドアの外から衝撃の返答があった。

「ライス君、わたし、ファンです。よかったら部屋に入れてもらえるかしら?」


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