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ミスーレ帝国 ③

「ええっ!皇帝陛下が立ち会われるのですか?」

 この賢者が今から話すことは、そんなに重要事項なのだろうか。一体何がどうなっているのか分からない。

「まあ、そう構えずに。困惑させてしまい申し訳ない。なにぶん陛下はお年が若い故、世情というものが分からぬのだ。まったく興味本位で困ったお人だ。お主たち、すまぬが陛下の臨席されることを理解いただきたい」

「はあ、それはかまいませんが・・」

 特段、後ろ暗いところもないし、自分たちはこれから話される内容がひとつも分からないので、誰が一緒でも問題ない。

 僕が言葉を言い終わらないうちに、2名の従者の方が「皇帝陛下が参られました」と、この応接間に入って来て、続くように、とある人物が現れた。

 その人物は簡素なドレスを身にまとった女性であった。栗色の髪を束ねた、若く美しい人物であったが、この人物が現れると、賢者の方が深々と頭を下げた。

 どうやら皇帝陛下とは、この目の前の女性であるようだ。

「皆さま、はじめまして。わたくしが、皇帝の位にありますソシミール・サンダーグックです。この度は失礼ながら、この話に参加させていただくことをお許しください」

 一礼した陛下は、僕たちが座っている応接椅子の一角に腰を下ろした。

 美貌にひかれたわけではないが、ソシミールという名の陛下のほうをつい見ていたら、僕の方に視線を移した陛下はニコリと微笑まれた。その深い青色の瞳は、人の心を見透かすような雰囲気を秘めている。

「さて、改めて話を続けよう。よろしいかな?」

 賢者が僕たちに確認をとるとともに、先ほどの話しの続きをしだした。

「まずは、依頼の件であるが、単刀直入に言うと魔王退治を願いたいのだ」

「魔王ですか?」

「そうだ、この国の東の海岸より、海を渡ると大きな島国があるのだが、そこは古来より魔物が住む島で、そこに魔王がいるのだ。そのことについてはペーリー・カーン、そなたがよく知っておろう」

 賢者は話しをペーリーさんのほうにふる。

 そう、ペーリーさんは闇の魔導士になる以前は、聖職者であり、魔王討伐に向かったらしかった。だが仲間に裏切られ、それ以降は魔王のことは分からないと言っていた。

「ええ、あたしは確かに昔、魔物の島に魔王退治に行きました。それは失敗に終わりましたが、その後、魔王の悪事のうわさはパタッとやみました。これについては、あたしはなんの事情も知りません。ですが、魔王は健在だったのですね?」

「ふむ、やはりペーリー、お主は事情を知らなかったか。実は、魔王は代替わりをしているのだよ」

「代替わり?」

「そう、お主が倒そうとした魔王は、すでにこの世から消されてしまい、現在は別な者が魔王として君臨しているのだ」

「そうだったんですか。ただ、序列からいっても、あの魔王を倒せそうな魔物は、あの島にはいなさそうでしたけど」

「そう、今の魔王は、あの島にいた魔物ではないのだ。今の魔王の名前は、ジークラー・シス・ガローナ。こう言えば分かるな」

 賢者がそう言うと、ペーリーさんは椅子からバッと立ち上がった。体が震えているように見える。

「う、うそ、そんなのありえない・・」

「そう思う気持ちは分かるが、事実はそうなのだよ」

 顔色が青みをおびたペーリーさん。よほどの衝撃を受けているようだ。

 そのペーリーさんは、皆をぐるりと見渡すと震える声を出した。

「ジークラー・シス・ガローナ、彼は昔、魔王討伐をするために、あたしと一緒に行動したパーティのリーダー、『勇者』だった人なの・・」


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