ファンさんの手料理 ⑤
「ライス君、ちょっといいかしら」
夕飯をと風呂を終え、リビングのソファーでくつろいでいたところをファンさんに呼ばれた。
たぶん今日の夕飯のことでの相談であろう。他のみんなも、そう思っているのは明白で、行ってらっしゃいと顔に書いてあるようだ。
ベッドルームのベッドに並んで座ると、案の定、早速ファンさんが切り出す。
「わたし、夕飯があんなに酷評されるとは思わなかったの。もちろん、ライス君と比べられたら雲泥の差があるのは分かるけど・・」
ここで優しくして、否定しないのは本人のためにならない。僕は意を決する。
「いえ、今回の料理はひどかったです。修行不足です。もっとしっかりと頑張らなくちゃだめですよ」
「・・そうよねえ、みんなの反応でそれはよく理解したつもりなの・・」
「じゃあ、これから少しづつ覚えましょう。僕でよければ力をお貸しします」
「ありがとうライス君。それでね、相談したいことはミルフのことなの」
「はあ」
「わたしが今回夕飯つくったのも、そもそもミルフが食べてみたいって言ったからじゃない。わたしも母親の思い出をつくってあげたいと思ったし」
「ええ、そうですね」
「それがふたを開ければ拷問の一種かと思ったって言われてショックどころじゃないわよね」
それはそうだよな。ファンさんは根が真面目だから、たしかにそのセリフはこたえただろう。
「それでね、ライス君、以前に『自分は心に刻まれたような味』が分かるって言ってたじゃない。ミルフのそれを知りたいの」
「その料理をつくってあげて、ミルフを喜ばせてあげたいと?」
「そういうこと。もちろん、ちゃんと作れるようにライス君に面倒みてもらおうと思ってるんだけどね」
「ははは、いいですよ、実はミルフの心に刻まれた味はもう調べてあるんで・・・」
僕は途中まで言って、自分の発言の失敗に気がついた。言わないほうがよかった。
しかし、ファンさんは目を輝かせて僕につめよってくる。
「えっ!なになに!教えて!」
「あ・・え~とですね、それはたぶん出来ないですよ・・あきらめましょう」
「なによそれ、もったいぶらないで教えて!」
真剣な目で僕を見つめるファンさん。お願いしますという思いがズンと伝わってくる。ごまかさず言うしかない。
「あのですね、ミルフの心にあるのは、おっぱいです。母親のおっぱい」
「おっぱい?」
「ええ、ミルフはまだ小さいですからね。無意識でしょうが、今、心に刻まれているのは実の母親から飲ませてもらった、おっぱいなんです」
「そ、そうなの?でも、それならそれで、わたし頑張るから、ライス君つくり方教えて!」
はぁ?!僕はファンさんが言っていることが理解できず、思わずファンさんを見つめ返してしまった。




