ファンさんの手料理 ④
「ペーリー、お味はどうかしら?」
たまたまファンさんの正面に座っていたペーリーさんが、感想を求められた。
いきなりの指名に、一瞬ビクッとしたペーリーさん。
「か、感想ですか、あたしみたいな素人よりプロの意見のほうが、今後の参考になると思うんです。ねえ、ライスさん」
ず、ずるいぞペーリーさん、この件を僕にふってくるなんて!
だが、ファンさんはその言葉に納得している。
「それもそうね、ライス君、お味はどうかしら?」
ああ、どうしよう!正直に言ってしまいたい。だけど言えないこのもどかしさ。
あまりにもずるいかもしれないけれど、今回の一度だけだからと心に言い聞かせ僕は言葉を発する。
「そ、そうですね。まずは僕の意見よりも、母親の味を体現できているかどうかを聞いてみたほうがいいかと。ねえ、ミルフ」
その言葉に、ミルフはギョッとしたような顔をして僕を見てきた。ずるいぞ、お兄ちゃん!というセリフが出かかっているのがわかった。
ファンさんは、僕の言葉に再び納得している。
「それもそうね、ミルフ、お味はどうかしら?」
追い詰められたミルフは、固まったまま冷や汗を流す。やはりミルフに言わせるのはかわいそうだったか。
仕方ない、僕が正直に言おうと思ったときに、ミルフは言葉を述べ出した。
「ママは妖怪に取りつかれていたんだよね?」
「へっ?」
「なにかに憑依でもされてなくちゃ、この料理は作れないよ。これ、味を聞くレベルの話しじゃないよ。ボク、拷問の一種かと思った」
ミルフのストレートなセリフに、笑みのまま固まるファンさん。
僕のとなりでは、ペーリーさんとガイターさんが、「ファンおねえさま、これを味見して平気だったのかしら?」「毒ヘビは自分の毒では死なねえのと同じだべ」と、ヒソヒソ声で話している。
ファンさんは相当ショックを受けたようで、ピクリとも動かない。
「ママ、大丈夫?」
ミルフの呼びかけに、魂がもどってきたかのような表情をしたファンさん。
「え、ええ大丈夫よ・・ごめんなさい、夕飯どうしましょう?」
ファンさんは困惑しながらも、皆の夕飯の心配をした。
「じゃあ、僕がほんの少しだけ手を加えますから、ちょっとだけ待ってて下さい。ミルフ、手伝ってくれるかい」
「うん、いいよ」
とりあえず、食卓の皿を全部下げ、修復作業にかかり出す。
サラダのニンジンとピーマンは千切りにし、トマトやブロッコリーを加え、特製のドレッシングをかけた。
魚はウロコをとってから身を外し、下味をつけてからムニエル風に焼き上げる。
肉は焦げた下面を削ぎ落してから、適度な大きさにスライスして熱を加え、特製ソースをかけた。
さすがに茹でたパンはどうしようもないので、新たにパンを切って具材を乗せ、ピザトーストのようにして焼き上げる。
胡椒味のお湯スープも、加水し、顆粒コンソメや具材で味付けをし直し、食べられるレベルまで引き上げた。
「少し手を加えただけで、ずいぶん変わるのね」
と、新たに配膳しなおした夕飯に感心するファンさんと、難局を無事乗り越え、ホッとする僕たちがいた。




