ファンさんの手料理 ③
うっ!
食卓の席についた僕は、いや僕だけではない、皆も驚きと戸惑いの表情を隠せない。
各自5皿の料理が配膳されているが、お世辞にも美味しそうとは言えない姿かたちをしている。
サラダと思われる皿には、レタスを敷いた上に、茹でたニンジンがそのままの形で丸ごと1本と、これも一緒に茹でたのであろうと思われるピーマンが1個添えられている。ピーマンは包丁を入れた形跡がないので、たぶん種はとっていないだろう・・まるでロバの食事だ・・
となりの皿、これは魚料理なのだろう、たぶん水で少しだけ煮た魚がこれまた一匹丸のまま皿に載っている。これも包丁を入れていないので、ウロコはそのままだし、はらわたも取り出してないようだ。これをどう食べろというのだろうか・・
肉が載った皿であるが、ステーキを焼いたように思われるが、これまたひどい。下の面は焦げたように黒いが、上の面は赤いままだ。フライパンで焼いたようだが、どうやらひっくり返していないため、この有り様になったようだ。
あと、これはなんだろうか?白くてプニュプニュした塊りが皿に載っている。僕は一瞬匂いを嗅いで理解した。これはパンだ。パンはそのままだせばいいのに、魚と野菜と一緒に鍋に入れて煮たようだ。口に運ぶのにかなり勇気を要する一皿である。
「どうぞ、召し上がって」
呆然と料理を見ていた僕たちに、ファンさんから声がかかった。まるで別の世界に行っていた僕の意識が、現実へと引き戻される。
これは冗談ですか?と、のど元までセリフが出かかるが、ニコッとしたファンさんの顔を見ると、とても言えたものではない。
とりあえず、味はわからないが、飲んでも大丈夫そうな目の前のスープを攻略してみようと、スプーンを手にする。みんなを見ると、やはり僕と同じように考えていて、誰もがスプーンを手にした。
おそるおそる、スプーン半分くらいにスープを入れ、それを口に流し込んだ。
ゲー!
吐き出さなかった自分をほめてあげたい程の衝撃だ。なんだ、これは!
「あっ、そのスープね、作っている途中で、振ってた胡椒のふたが外れて、一瓶全部の胡椒が入っちゃったの。仕方ないから水で薄めたの」
ファンさんの解説で、全て理解した。
これは胡椒を湯にぶちこんで出来た産物だ。わずかに塩とタマネギの味はするが、一般の人ではその味は感じられないだろう。たぶん99%の味は胡椒入りの湯なのだから。
「ファン、むかしレーカーと結婚してたとき料理はどうしてただ?」
たまらず、ガイターさんが遠回しに質問をいれる。
「え~とね、そういえば作ったことないかしら?一度だけ作ったことある気がするけど、それ以降は、レーカーに『きみは食卓の花のようだ、そこに座っていてくれれば、僕の料理の創作意欲が高まるのさ』って言われて、わたしキッチンに立ったことなかったな」
「・・・・」
それは、はるか大昔の出来事であろうにもかかわらず、このスープの衝撃が、その風景を思い切り現代によみがえらせているかのようであった。




