ファンさんの手料理 ②
「あら、わたしの料理が食べたいの?」
「うん。いつも料理をつくるのって、ライスお兄ちゃんでしょう。まだ、ママの料理食べたことないし」
ミルフはじっとファンさんを見ていて、その様子を僕たちが眺めている。
「言われてみれば、このメンバーで旅をしてるけど、料理をつくるのはライスさんって感じになってて、他の誰も料理したことなかったね」
ペーリーさんの言葉に、ハッとさせられた。
料理は常に僕が担当だって頭でいたけど、そんな約束事もなかったし、誰がやってもいい話しなんだよな。
職業柄、面倒という気持ちもなかったけど、ファンさんの手料理というのは気になる。旅路では外食も多く、その度、ファンさんの料理に対する論評は、逐一的を射ており、かなり料理に対して造詣が深いのだ。
そんな彼女が料理を作ったら、どんなものが出てくるのか見てみたいものだが、それはみんなも同じ気持ちのようで、昼食のパスタを食べる手を止め、ファンさんの声がでるのを待っている。
「そうよねえ、子供が母親の味を知らないというのも問題よね。いいわ、今日の夕飯は、わたしが作ります。ライス君のようにプロの味とはいかないけれど、みんな、いいかしら?」
むろん、誰にも異論はない。
「やったー!ボク楽しみだな~」
ミルフは嬉しそうにパスタをほおばる。
「僕、なにかお手伝いしましょうか?」
「ライス君ありがとうね。でも家庭料理って普通一人でつくるじゃない?だから今回はわたし一人でやってみたいの」
「そうですか。では、夕飯ミルフと一緒に楽しみに待ってます」
昼食を終えると、早速ファンさんは買い出しに出かける。まだまだ時間はあるのに、どうやら気合が入っているようだ。
さてはて、どんな料理がでてくるのだろうか?
順当に考えると、無難な家庭料理が出てくるのかなと思うが、田舎のおっかさんの料理っていう感じも面白いかもだ。
もしくは、僕の料理を凌駕するほどのものが出てきたら、対抗心などが芽生えてしまうのだろうか。
色々と想像が尽きないが、それとは別にやっておこうと思ったことがあり、今、それを実行すべく、ミルフの頭をさりげなくなでた。
僕の能力である、「心に刻まれた味を知る力」で、ミルフの心にある食べ物を知ろうとしたのだ。
ミルフの思いのある味が映像として浮かんできたが、それは、僕には作ることができないものであった。
さて、夕刻の時間。ヒマな時間をつぶすため、僕たちは居間でトランプに興じていた。
キッチンからは、料理を煮たり焼いたりといった音が聞こえてきていたが、その音が聞こえなくなると、ファンさんから声がかかった。
「みんな、ご飯ですよ~」




