魔神 ガイター ③
「あの~、どなたかいらっしゃいますか?」
大理石の太い柱が立ち並ぶ神殿。その屋内に僕の声がこだまになってはね返ってくる。
魔神ガイターがここに住んでいるとのことで来てみたが、どうにもひと気がない。
この神殿はむかしの遺跡だそうで、元々無人のところに魔神が住み着いたと街の人は言っていたが、それもはるか昔からの言い伝えで真偽も定かではないらしい。
さっきから20分ほど、神殿の中をあちこち移動しながら探しているが、気配が感じられない。
「ほんとに魔神が住んでるんですかね~?街の人の話しでは大昔の逸話ってことらしいし、引っ越しでもしちゃたんでしょうかね?」
「う~ん、どうかしらね?」
僕の後ろを歩いてくるファンさんの返事の声が聞こえる。僕は前を歩き、魔神を探しながら後ろのファンさんに話しかける。
「あの~、ファンさんと魔神ガイターって、以前になにかあったって言ってましたけど、なにがあったんですか?」
「そう、ちょっと喧嘩別れみたいになってね、もし、ガイターがそのことをまだ怒っていたら、ライス君気をつけてね。食べられちゃうかもしれないから」
ドクン!その言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく鼓動する。魔神って人食いなのか!そんなの聞いてないよ!気をつけろって言われてもどうすればいいんだよ!
「ちょっと、ファンさん!」
抗議のため後ろを振り向いた。
えっ!い、い、いない・・ファンさんがいない!えっ!えっ!どうして?
見渡すかぎり、どこにも姿が見えず、妙な汗が流れる。
「ちょっと!悪い冗談はやめてくださいよ!ちょっとー!」
もう!こんなとこで!
気が動転、キョロキョロし前に向きなおる。
うっー!いた!で、でも、ファ、ファンさんじゃない・・た、たぶん、魔神・・
僕の目の前に、明らかに2m以上の、かっぷくのいい大男。陽にやけた褐色の肌がいかめしく、たぷっとしたズボンに、上半身には毛皮のベスト、スキンヘッドの丸顔でヒゲをたくわえている。
ギョロっとした目で僕をじっと睨んでいるようだ。
どうしよう、どうしよう、ただガチガチと震えることしかできない。
「おめぇさん、なんか見たごとあんなぁ」
眼前の男がズシリと一歩を踏み出してきた。
「うわー!すいません、すいません!ここ直ぐに出ていきます!食べるのだけは勘弁してくださいー!」
めいっぱいの大声をあげた。
「こら!初対面なのに失礼だべ。おら人間なんか食わねぇど!」
「えっ、だ、だってさっきファンさんが・・」
「・・ファン?・・」
僕はもう一度後ろを振り向くと、さっきは消えていたファンさんが悲しそうな顔をして立っていた。
魔神の顔を見ると、それは凄まじい顔でファンさんを睨んでいるように見える。こ、こんなとこで一戦やるのは勘弁してほしい。