仲直りの話 ①
僕たちは、ミスーレ帝国へ入国するための検問所で、検査を受けるべく待機している。
この都市は、ミスーレ帝国の首都からは離れた位置に在しているが、交通の要衝になっているため、帝国の中でも首都に次ぐ大きさなのだという。
検問所に隣する土地には、荷馬車、幌馬車が相当数駐車していて、検査を今か今かと待っている。
いよいよ僕たちの番となったが、なかなかに検査が厳しく、幌馬車の内外の点検はもちろん、帝国へ入国する理由等々を聞かれている。
「ほう、ミスーレ帝国の帝国第一ホテル総料理長、ブレッド氏に会いにいくというのだな」
「ええ、僕はマクレチス国でシェフをしていたのですが、当時これをいただいたので、お礼を言いにきたのです」
革のケースに入った包丁を見せると、検査官はそれを手に取った。
「なるほど、確かに帝国第一ホテルの紋章が柄の部分に刻まれているな。まあ、物証もあるし、お礼にきたというのも殊勝であるな。よろしい入国を許可しよう」
と、晴れてミスーレ帝国へ入れる身となった。
「検査官さんも、細かくチェックしなくちゃならなくて、大変なんですね」
僕は入国許可証を受け取ったとき、なにげにそう言った。
「ふむ、実は普段はここまで厳しくないんだが、いまこの都市ではちょっと問題があってな」
「はあ、なにか事件でも?」
「ふむ、実は、殺人事件が多発しておってな、なんでも犯人は狼男ということらしい」
「お、おおかみ男ですか」
「そうだ、だから厳戒態勢をしいておるのだ。おまえたちも街で騒ぎをおこすなよ。騒ぎをおこしたら、容赦なく国外へ追放するからな」
「はい、気をつけます」
僕は皆をみわたした。
たぶん、僕は騒ぎなどおこさないだろうけど、この3人はスイッチが入ると暴れ出しそうで怪しい。狼男なんか見たら大騒動になりそうだ。あとでしっかり釘をさしておこうと思う。
荷馬車のところに戻ると、街中での荷馬車の移動は、道幅によって不便なこともあるから徒歩にしようということになった。
荷馬車の滞留手続きをするため、駐輪事務所へと歩いて行くと、前から歩いてくる3人の男が、すれ違いざま、わざと僕にぶつかってきて持っていた紙袋を落とした。
紙袋が落下すると、ガシャっとなにかが割れた音がした。
「あ~、大事な茶碗が割れちゃったよ。あんた、これどうしてくれんの?」
「あの、あなたたち、わざとぶつかってきましたよね?」
3人の男は、すさんだ顔をした武闘家くずれという感じで、当たり屋行為であったのは間違いない。
「ふ~ん、ずいぶんえらそうだねあんた。ここ、あんたの土地。それは失礼しましたねー」
「そんな訳ないじゃないですか、ここ駐車場ですよ」
「ほー、じゃあ公共の場所じゃねえか!なにをいきがってんだ、茶碗を弁償しやがれ、この野郎!」
「・・弁償って、いくらなんですか?」
「おう、これは特製の茶碗でな、金貨50枚と言いてえところだが、30枚にまけてやる」
金貨30枚だって!あまりにもふざけた金額に憤る。
「ちょっと待ちなさいよ、あなたたち!」
背後から聞こえて来た声の主はペーリーさんだった。
御礼
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