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疑似結婚談 ④

 町で労働をし、旅の資金がそこそこたまったので、満を持し、いざ出発となった。

 間もなくミスーレ帝国の領地へ足を踏み入れることとなる。道沿いの看板には、国境検問所まであと10kmと記されていた。

 昨日の仕事の成果だが、ガイターさんは、他の人の2倍の賃金という約束で土方に従事したが、親方から3倍の賃金をもらったと喜んだ。

 だが詳しく話を聞くと、どうやら他の人の30倍の仕事量をこなしたようなので、対価としては割に合わないのが、なんともという感じだ。

 ファンさんの絵画のモデルのほうも、高額報酬をきっちりといただいたそうだ。

 だが、最後の段になって、有名画家イーヨー・バロー氏から、今後、専属でモデルをしてくれないか、ずっと自分のそばにいてくれないかと懇願され、断るのに一苦労したとのことである。

 この辺りは平地が続き、田畑と林が入り交じる風景が続く。道中、お世話になった幌馬車はすっかりくたびれてきている。

 今日は、荷馬車の手綱を握るのは、ガイターさんが当番であったが、天気がよく、日にあたりたいからと偽った言葉を述べ、僕が馬を操っている。

 なぜそんなことをするのかというと、昨日の一件で、ペーリーさんとやりあってしまい、幌の中で一緒にいるのが苦に感じたからである。

 ペーリーさんのお兄さんには気の毒なことをした。一族に待望の子供が授かったと、ウソの報告をしに祖国に帰られたのだ。もちろん、お兄さんは真実を知らないのだが。

 最後の最後まで、体をいとえよと、ペーリーさんを案じる兄に対し、あたしのことは大丈夫だから、うまくパパとママにとりなしといてと、よくもまあ、あっけらかんと言えたものだと、あきれてしまった。

 本当のことを言えばよかったと、今更ながら自己嫌悪しているところだ。

 お兄さんが帰られたあとのやり取りもヒドいものだった。


「ペーリーさん!なんですか今のは!ウソばっかりついてとんでもないですよ!」

「ごめんライスさん、でもうまくいってよかったわ。ライスさんの演技が下手なんでどうなるかと思ったけど」

「僕はウソなんか大嫌いです!こんなことなら全部お兄さんに話せばよかったですよ!」

「なによ、さっきから怒っちゃって、あなた子供じゃないんだから、この世の中ウソばかりだって分かるでしょう」

「たとえ世の中ウソばかりだって、実の兄まであざむくなんて、どうかしてます!」

「そんなに言うならウソにしなきゃいいじゃない」

「は?」

「あたしのお兄ちゃんが、ライスさんが、あたしの夫であり赤ちゃんの父親であることが本当のことだと思ってるのが気に入らないんでしょう?」

「・・・?」

「だから、ライスさん、あたしと結婚して、子供をつくればウソじゃなくなるでしょ!」

「ぺ、ぺーりーさん、あんたね~!」

「あたしは別にいいわよ。ライスさん、優しいし誠実だし・・」

 恥ずかしそうに顔をあかくして、そんな演技をしているのが余計に頭にきた!ウソのオンパレードだ!

「僕はそんなの御免です!なにが赤ちゃんですか!赤ちゃんが、こんなウソだらけの環境で育って、将来、詐欺師にでもなったらたいへんだ!」

「ひどーい!普通、そこまで言う!?あたしもう、ライスさんとはしばらく口きかない!」

「それは、こっちのセリフです!」

 それを最後に、お互いそっぽをむいた。


 以上が昨日のやりとりだ。この状態では、さすがにペーリーさんと幌馬車の幌の中に一緒にいることに、ためらいがあるのは分かるだろう。

 だいたいペーリーさんはガイターさんが好きなのに、おかしな話しだ。

 なにはともかく、国境の検問所が視界に入ってきた。

 不快な気持ちを抱えながら、目的地のミスーレ帝国への入国を迎えるのであった。


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