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泣いた赤い鬼 ⑫

「あやまるのは、わたしたちの方だったみたい。ほんとにごめんなさい」

 ファンさんが赤鬼にむかい丁寧に頭を下げ謝罪した。

「よいよい、美しき魔法使いよ、ぬしには悪いことをしたのう」

「ヘビの幻影のこと?あなたに見えたのはそれだけ?」

 その言葉に、赤鬼はじっとファンさんを見つめた。

「おぬし、人間の男にひどい目にあわされとるのう、可哀そうに。そんなもの幻でも見せられるわけなかろうが」

 ファンさんは一瞬目をピクっとさせた。そして「やはり分かってたのね」と言うと、ボソボソっと呪文を唱え、再度、赤鬼に回復の呪文をかけた。

 輝く手でなでられた赤鬼は、体に力が戻ったようで、立ち上がって礼を言う。

「おお、これは、かたじけない。体が楽になったわ」

「話を聞く限り、人に恋したり、食人の一族を更生しようとしたり、あなたは悪い鬼じゃないみたいね」

「そう言われると照れるが、どこにでも異端はおるでの。まあ、忠告だが、ワシ以外の鬼に出会ったら、逃げたほうがよいぞ」

「そうね、昔から伝えられているとおり、鬼族には魔法の攻撃が効かないことがよく分かったしね」

「ハハハ、鬼を撃破するには、直接の打撃しか効果がないからの。そういうワシも、今後は魔神と出会ったら逃げるようにせねばな、魔人はクワバラクワバラじゃ」

 赤鬼は首をすくめてそう言うと、ファンさんと、ガイターさんは、フフッとおかしそうに笑った。

 すくめた首を、赤鬼は二度ほど首をゴキゴキとならすと、僕のほうに振り向く。

「小僧、先程はうまい米酒をご馳走になった。この酒は、ワシの心の葛藤を流してくれた。なにか礼をせねばならんの」

「そんな、お礼なんていいですよ、米酒は、たまたまもっていただけだし」

「そうはいかん。そうだ、ちと待っておれ」

 ダダっと走り、家を往復してきた赤鬼の手には、布のようなものが握られていた。

「これはマントなんじゃが、これを羽織ると、魔力に反応して体の色が変わるという代物だ。そして、魔力がないものがこれを被ると、無色、つまり透明になることができるのじゃ」

 そう言うと、赤鬼はそのマントを僕にサッと被せた。

 すると、僕の体の色がなくなったようで、手を見ると、透けて地面が見える。

「おー、ライスっちが消えただ。こりゃすげえだ!」

「これなら危険がせまっても一時的に身を隠せるわ。ライス君、遠慮なくいただいたほうがよくてよ」

 二人ともそう言うので、鬼のマントを有り難く頂戴することにした。


「さて、ワシはここの始末をせねばならん。おまえたちも目的は果たせたであろう。もうこの場を去るが良い」

 僕たちが一段落すると、赤鬼はそのように促す。

 確かに、ペーリーさんに、薬草液を飲ませるという目的が済んだので、僕たちはその言葉に従って、この地を後にした。

 馬車のところへ帰るべく、山を下っている途中で、うおーっという声が遠くで聞こえた。その場から、呪われた村の方向を見ると、大量の白い煙の元で、炎が上がっている。赤鬼は始末をつけると言っていたので、これが彼の始末のつけかただったのだろう。

 その場で煙を見上げる僕たち一同。

 僕は、あのとき、うまそうに米酒を飲んで、泣いた赤い鬼の姿を、思い返していたのだった。


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