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泣いた赤い鬼 ⑪

「ワシはその昔、百年くらい前の話じゃが、人間のおなごを好いたことがあっての、そのおなごは毎年ワシに米酒を捧げものといってもってきてくれたのだ。それが嬉しくてのう」

 米酒の入った竹筒をながめながら、赤鬼は自分の過去を話し出した。

「まあ、所詮は鬼と人間。ワシはその心を打ち明けるはずもなく、おなごも寿命で亡くなってしまった。ただ、その時の淡い心が、なぜかずーっと消えなくての、せめて思い出の米酒でも飲んで忍ぼうと、酒をもらいに人里にでてきたわけじゃが・・」

「その人里というのがこの村だったわけだが、鬼のワシが言うのもなんだが、ここには地獄があったのじゃ」

 赤鬼は当時を思い出したかのごとく、体をブルっとふるわせる。

「この村には、当初この村を創った人たちが住んでいたのだが、こいつらが現れて村人を食ってしまったのだ。そう、こいつらは食人の一族なんじゃ。そして家々は、こいつらが乗っ取ってしまいよったのだ」

「ワシがこの村に初めて来た時も、こいつらは旅人を襲って食っている最中だった」

「なんの一族かは知らぬが、小さな子供までもが、死んだ人間の腕をうまそうに食っておっての、戦りつが走ると同時に、なんとかしてやらねばならぬという気持ちがわいてしまったのだ・・」

 一息をつくためだろうか、赤鬼はグビリと一口酒を飲む。

「ワシはこの村の者が、外に出て旅人を襲わないよう徹底して見張った。肉を食うときは、ワシが鹿や猪を獲ってきて、それを焼いて食うよう教育をしてきた。野菜もちゃんと食べるよう畑をつくったのだ」

 そうだ、ここに来る途中、確かに小さいけれど畑があった。あれは赤鬼が野菜を育ててたのか。

「ほかにも、人に敬意をうながすよう、死んだ者たちの墓をつくり、お参りするようにしむけた。そんなこんなで30年は過ぎたかのう。とりあえず、人間が食われることはなくなり、平和に暮らしているように見えたのだが・・」

「だが、村のやつらが、鬼退治をしてくれと、おまえらに頼んだと聞いて、今までワシがしてきたことは、なにひとつ意味がなかったと悟ったんじゃ。案の定、ワシが勝負に負けて動けなくなったら、ハンモックに寝ていたおなごを食おうとヤリで突き刺しおって・・まあ、ここにいる者、全て食うつもりだったのだろうな・・」

「いったいこいつらはなんだったのかのう?人間なのか、はたまた、人間の姿をしたなにかだったのか?」

 そこまで話すと、鬼はハーっとため息をはいた。

「赤鬼さんよぉ、話はわかっただが、なんでオラたちを襲おうとしただ?」

 ガイターさんの言葉に、鬼はジロリと僕たちを見回した。

「この馬鹿どもが。最初におまえが、村人に鬼退治を依頼されたと言ってきただろう、頭にきたワシは、おまえらじゃなく、村人のところに真意をただしに行こうとしたら、おまえらが先に攻撃をしてきたのじゃぞ」

 鬼の言葉に、僕は今までの様子を思い出してみたら、確かに言われればそうだった。

「まあ、ワシも応戦しなければよかったのだが、なん十年ぶりかにケンカをふっかけられて楽しくなってしもうてのう、そこは鬼のさがと思うて許してくれ・・」

 赤鬼は、そこでペコっと小さく頭を下げたのだった。


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