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泣いた赤い鬼 ⑨

「う、うむむ」

 ガイターさんは、小さなうめき声をあげ、ブルブルと震えながら立ち上がった。

 そして、ゆっくりと、一歩一歩をふみしめ、赤鬼の元へ向かう。赤鬼は岩に打ち付けられ、そのままの体勢で微動だにしない。

「だ、大丈夫だか?」

「・・う、うう、どうやらワシは負けたようじゃな」

「へへ、お互い体じゅう腫れてボコボコだぁ、勝ち負けなんてどうでもいいべ」

 起き上がることのできない赤鬼を、ガイターさんは抱え上げて草原へ横たえた。

「ふふ、愉快じゃ。負けてこんな愉快な気持ちになるとは思わなんだ」

 横たえられた鬼が楽しそうにそう述べたとき、この場が異様に包まれた。


 先ほど会ったこの村の人たちが、僕たちの周りにあつまってきている。

 その手には、木の棒や、鉄の棒、粗末なヤリなど、武器になりそうなものが握りしめられていた。

「へへへ、あんたらよくやってくれたな。鬼のヤツ、虫の息だ」

 そう話す男は、この村に入ったとき、鬼退治を依頼してきた人だった。

 僕は、ほんの少しの時間だけど、目の前の、この鬼と接してて、鬼がそれほど酷い人物とは考えられず、なにか誤解が生じているのではないかと思った。

 この場をとり囲んできた村人は、男たちだけではなく、女や子供まで、全ての人が集まっているようだ。

 30人はいるように見える。みんな血走った目で、ニタニタ笑っていた。

「やっとこれでちゃんとしたメシが食えるぜ」

 誰かがそう言ったとき、

「ペーリー!」

 と、ファンさんがいきなり大声をあげた。

 僕はその声に驚き、条件反射のように、ペーリーさんが寝ているハンモックのほうに視線を移した。

 そこには、二人の男が、ハンモックをヤリで突き刺している光景があった。

 信じられない場面に、動揺すると同時にペーリーさんの安否を確認するべく走ろうとしたとき、

「そこの魔女よ、ぬしは、回復の魔法が使えると言ったな。すまぬがワシにその術を頼む。これはワシがけりをつけねばならぬのだ!」

 と、赤鬼が声をあげた。

 ファンさんは一瞬戸惑った顔を見せたが、すぐにボソッと呪文を唱える。するとファンさんの手がまぶしく光り、その光で鬼をなでた。

 なでられた鬼は、むくりと起き上がり、「かたじけない」と、一言だけ言うと、その場をだっとかけ出した。

「きさまらー!」

 赤鬼は拳を振り上げ、怒号をはりあげる。

 そしてこの場に、阿鼻叫喚の地獄絵図が現れたのだった。


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