泣いた赤い鬼 ⑥
二人の大男が対峙している間に、僕はこそッとファンさんの元に行き抱き起こした。
「大丈夫ですか?」
鬼に気付かれないように、できるだけ小声で話す。
「ええ、なんとか」
ファンさんは、けがをしている様子はないが、うしろ手の状態で、植物のツルのようなもので胸の周りを縛られているので、立って歩くのは危ない。
「ファンさん、ちょっと移動しますので、少し我慢してください」
と断ってから抱きかかえ、大木の陰のほうへ避難する。その場所にはハンモックに包まれているペーリーさんがいる。早くフイラの根で処置してあげなくては。
とにかく、この位置から勝負を見ることにした。
「おぬしには恨みもないが、どうにも心に火がついて止まらぬわ。これも運じゃ!尋常に勝負を願いたもうぞ」
と、ガイターさんより頭一つ分大きい鬼が、勝負の口上を述べる。
「オラ難しいことは分かんねけど、ケンカってことでいいだな?久々に腕がなるっていいてえとこだが、ちょっと済ましておきてえことがあるだ」
「ほう、なんだ、言ってみるがよい」
鬼の言葉に、ガイターさんはここに来た理由を簡潔に鬼に話した。
その理由を聞き終えた鬼は、
「なぜ、そのことを早く言わん!この馬鹿者が!」
と怒り出し、ドスドスと僕のほうに歩いてくる。
「これ、そこの小僧、ワシの家にはフイラの根を砕いたものがしまってある。今からとって来るから、その間にその魔女のツタを切りおとしておくがよい」
と言い、小型の包丁を僕の前に置いた。
そして、しっかりしろと言わんばかりに僕の肩をポンポンと叩くと、家のほうに向かった。
実は、鬼が僕の肩に触ったときに、僕の能力である「心の味」が発動していた。ああ、この鬼は、これが心に刻まれているのか。
だが、今はそのことに触れているときではない。
僕は、鬼が置いた包丁を使い、ファンさんにまとわるツタを切断し、いましめを解いていく。
家に行った鬼は、植物の粉のようなものを器に入れて戻って来た。その粉の匂いをファンさんがかぐと、
「ええ、これで間違えないわ」
と、太鼓判が押されたので、その器に、持って来た米酒を注いでしぼり、薬草液が出来上がった。
僕とファンさんとで、横になっているペーリーさんの口を開いて、薬草液を流し込む。ケホケホっとむせたペーリーさんではあったが、とりあえず処置はできたようだ。
ペーリーさんがよく休めるように、今まで包んでいたハンモックのひもを周囲の木の枝にかけ、本来のハンモック使いかたで、ペーリーさんをそこに寝かせた。
若干、苦しさの険しい表情が消え、クークーと寝息をたてて寝ている。たぶん、これなら大丈夫だろう。
その場にほっとした空気が流れた。




