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泣いた赤い鬼 ⑤

 ドドドドっと足音を響かせやってくる鬼。

「フォルクェス・タヴァロス」

 ファンさんは呪文をボソッとつぶやいた。

 バーーーン!

 その場が光に包まれ、落雷の音がなり響いた。だが、その雷光は、鬼が持ち上げた金棒に吸われていく。

「そこのおなご。なかなかの雷撃の術じゃの、金棒の避雷術がなければワシも危ないとこじゃった」

 鬼は野太い声をあげた。ファンさんは、その言葉には答えず、矢継ぎ早に術を繰り出す。

 ボソッと呪文を唱えて、投げキスをするように、口にあてた手を鬼のほうにシュッと向ける。

それに鬼は反応し、ブフォーっと息を吐きだした。

 するとファンさんは、バッと後方に宙返りをして身をふせる。そのファンさんの目の前に、ドサッと固まったものが落ちて来た。

 固まったものとは、石になったファンさんの魔女の帽子だった。

 ファンさんの石化の術を鬼がはね返し、それを察したファンさんが宙返りで逃げたのだが、そのとき外れた帽子に石化の術が当たり落下したのだと僕は推察した。なんて攻防なのだろう。

「ガーヤ・ヤーガ・バラディマ」ファンさんは魔法で猛攻する。

 呪文直後に、鬼は炎に包まれる。

 全身が火まみれになっている鬼だったが、身をブルブルっと震わせただけで、その火は霧散した。

「ハハハ、赤鬼には火術は効かぬ。どれ、今度はワシが攻め手となるか。なぜ古来より鬼が人共に恐れられてきたか、その真髄を見せてやろう」

 そう言うと、鬼は片手をグワッと伸ばし、手のひらで円をえがく。

「・・むごかのう・・」

 なにか妙なことを言った鬼は、片足を高々とあげ、そのままドスンとおろして、地面を踏み鳴らした。

 僕にはなにがおこっているのか分からないが、ファンさんは驚いた表情で、なにかから逃げているような動きをしている。

 鬼はダダっと駆け、ファンさんを捕まえた!そして、植物のつるのようなものでファンさんを縛りあげ地面に寝かせた。

 地面に寝かされたファンさんは、そこで初めて気がついたように辺りを見回し、現状を理解したような表情を見せた。

「あわれなおなごよ。ぬしは、しばしこのまま待たれい」

 片ひざをついてファンさんを見ていた鬼は、立ち上がってガイターさんのほうを振り返った。

「ガイター、幻影に気をつけて!わたしはいま、数百匹ものヘビが襲ってくる幻を見せられたわ!」

 力の限り、ファンさんは注意の声をあげる。

「そう、鬼というものは、人の恐れを見ることができる。このおなごはヘビに畏怖の心があろう。それを幻として見せたのだ。これが鬼が鬼たるゆえんじゃ」

 その鬼は、極秘であろう術の意を、この場の皆に向け語っている。

 古来より人々が鬼を恐れるのは、自分の恐怖心を操られるがごとく利されるからか。これが鬼の怖さと強さの秘密だったのか。

「だが美しき魔女よ、余計な心配は無用じゃ。あの魔神には恐怖の心が見えぬわ。なんと猛々しい漢ではないか。久々にワシの心に火がつくようじゃ、どれ、こぶしで語り合ってくるかのう」

 二人の大男はズシズシとお互い歩み寄って対峙する。その拳は二人とも固く握りしめられていた。


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