泣いた赤い鬼 ④
まあ、ここにいる四人に鬼退治を頼むとすれば、見た目からいえばガイターさんに話すのが妥当ではあるが。
「鬼退治だぁ?鬼が悪さしにくんなら退治してやってもいいけど、どんな状況だべ?」
「俺たちは、あの鬼にいつも見張られてんだ。食いもんまで決められちまって、自由なんてありゃしねえ」
「それは困っただな。オラ、用が済んだら、もう一回おめの話し聞いてやるべ。いまっからあのアカギの木のとこに行ってから戻ってくるだで、ちっと待っててけろや」
「アカギの手前にある家に鬼が住んでるんだぞ、ここから行ったら一番奥の家だ。近くまで行ったら鬼が出てくるぜ」
「なんだと~、鬼は村に住んどるのけ?」
「そうだ、だからアカギのところに行くんなら、どっちにしろ鬼退治しなくちゃならねえな」
その男の言葉に僕たちは顔を見合わる。しかし、ちゅうちょしている時間はない。
僕たちが進むと、目の前の村人たちは左右に分かれ、その間をぬって歩く。
この村は悪臭がひどい。なんの臭いか分からないけど、その臭いを避けたくて、自然と歩みが早くなる。途中には若干の畑があるが、雑草だらけで見た目にも手入れが悪い。
更には、お墓と思われるが、土が盛られ木の杭が挿してあるものが、20個ほどまとまって見られるが、こちらも草だらけだ。
そんなところを過ぎると、いよいよアカギの樹木が近くなって来て、先程の人物が言ったとおり、その手前に一軒の家が見える。どうやら、そこが鬼が住む家なのだろうか。
「ライスっち、ペーリーを頼むだ。さっきの話がほんとならば、オラは一戦交えるようだべ。スキがあったら、ファンと先に進んで、フイラの根を探しててけろ」
と、ペーリーさんを包んでいるハンモックを僕に託した。
「わかりました。ガイターさん、気をつけてくださいね」と返事をし、ハンモックを背中に背負う。
そのときだった。目の前に見えている家の戸がバタッと開けられ、そこをくぐり出てきた者がいる。
それは鬼だった。
筋骨隆々の体は全身が赤く、ガイターさんより頭一つは大きく見える。目鼻立ちは大きく、口には二本の牙があり、もじゃもじゃの頭髪の中には、これまた二本のツノが生えている。
まさしく伝説によく聞く鬼の姿だ。その姿は怖ろしく、こうして見ているだけでも圧倒されてしまう。もし僕が襲われたら一秒ももたないだろう。
「ライス君、あの鬼からすごい妖力を感じるわ。ガイターだけでは厳しいと思うから、わたしは戦うほうに加勢する。スキがあったら先に進んで!」
「はい、わかりました。ファンさんも気をつけてください」
ファンさんは無言でうなずいた。かなり緊張しているようにみられる。やはり伝説のとおり、鬼とはそれほどに強いのだろうと認識させられる。
僕の前にファンさんとガイターさんが並んで立った。
「ガイター、あなたはさっき巨大化して能力をかなり使ってる。あなたが万全でも勝てる相手じゃない!まずは、わたしが鬼の体力を削ぐから、そのあと交代して!」
「ああ、わかっただ。どれ、あの鬼さん、襲ってくるかどうか、確かめるべ」
二人はそのように言葉を交わすと、こちらを眺め出した鬼にむかいガイターさんが大声で叫ぶ。
「おーい、そこの鬼!オラ、たった今、おめえのこと退治してけろって頼まれた者だけんど・・」
「なんだとーー!」
ガイターさんの言葉が終わらぬうちに、赤い鬼は黒い金棒を持って、怒声をあげながらドシドシとこちらに走ってくる。どうみても怒りにみちた表情だ。
「あらら、やっぱりやる気みてえだな。ファン、先陣頼んだど」
「ええ」
短く返事をすると、ファンさんはフーっと息を吐き、呼吸を整えた。




