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泣いた赤い鬼 ①

 ミスーレ帝国への旅路は順調かと思われたが、トラブルが発生した。

 ペーリーさんが体調を崩したのだ。原因は分かっている。食べ合わせだ。

 その日の移動中の昼食に、肉を焼いて食べたのだが、そこは、とある森の中で、たまたまであったが、バジュールの実がなっていたのが目にはいった。

 みんな、バジュールの実のことを知らないようだったので、教えてあげたのがいけなかった。

 本来、バジュールの実は非常においしい果実だが、肉とは相性が悪く、胃の中に食べた肉が残っている状態でバジュールを食べると、食べ合わせの悪さから、胃の中に雑菌が生じ、最悪の場合死にいたってしまう。だから今は絶対とって食べてはいけないと説明してしまった。かなりの念を押して注意したつもりだった。

 だが、僕の知らぬ間にペーリーさんはバジュールの実をもぎり、たぶん昼食のお肉の消化は終わったと思ったのだろう、それを食べてしまったようだ。

「おなかが痛いよぅ」

 その事態になって、はじめてバジュールを食べたことが判明した。

 なぜあれほど注意したのに、そんな子供じみたことをと思ったが、こうなってはそんなことを言っていられない。

 僕もいっぱしのシェフだ。食中毒などが発生したときの対処などは学んでいるので、早急にできることをする。まずは胃の内容物を除去するんだ。

 痛がるペーリーさんを四つん這いの状態にし、石鹸で消毒した僕の指2本を、「ごめん、全部吐いて!」と、ペーリーさんの小さな口に突っ込んだ。

 えずきの声をあげ、食べたものを吐しゃするペーリーさん。

 あとは、薬を飲ませ安静にさせたいのだが、バジュールの対応薬は、たぶんそこそこ大きな街でないと、置いてないだろう。それに、最後に立ち寄った村は今より2日前。そこでさえも戻っている時間はない。

一応、皆は魔法が使えるようなので、対処できるか聞いたが、体力の回復、外傷の治癒、解毒、などはなんとかなるが、今回のような症状は誰も対応できぬとのことだった。

 僕はなにかを必死に思い出そうとして、頭の片隅の記憶を掘り起こす。

 そうだ、一つだけ代薬があった。薬草だ!確かフイラの根をすりおろして、酒に混ぜて飲ませるとかなりの効能があると聞いたことがある!

 しかし、そこから先に進めない。僕は薬草の名を聞いたことがあるだけで、実際に見たことがないので、探しようがない。

「くそー、フイラの根がわかればなんとかなるかも知れないのに!」

 なんとも言えない気持ちで、ひとり言を言い放った。それに反応したファンさんが、

「わたし知ってる、そのフイラの根、わかるわ」

 と、値千金の返事が返ってきた。

 そうか!前にガイターさんが言っていたっけ。ファンさんの旦那さんだったレーカーさんって人は、薬草の研究家だったって!たぶんファンさんはレーカーさんに薬草のことをいろいろ教えてもらっていたに違いない!

 ファンさんは辺りを見回すと、

「あ、あそこ!たぶんあそこにフイラ草がある!」

 と、遠くに見える山の山頂のほうを指さした。

 そのあたりは、高山性の樹木のアカギが密集している。アカギは枝葉が濃い赤色なので、とても目立つから分かりやすい。

「フイラ草は、アカギがあるところには大抵生えているのよ。この辺りを見回しても、アカギがあるところはあそこしかないわ」

 ファンさんの明確な意見で、希望の光が見えてくる。

 ペーリーさんはガイターさんの腕の中で、横になって目を閉じているが、依然顔色はよくない。早急の対応が必要だ!

 ただ、僕には引っかかることがあった。

 それは、最後に立ち寄った村で、村の名主だという人物が言っていた言葉だ。


「おまえさん達が進む方角に2日ほど歩くと、道の左側にアカギが山頂に密集している山がある。間違ってもそこに近づいちゃだめだ。そこには村があるみてえだが、近づいて生きて帰った者はいねえという話だ。ここ何十年もその村をみた者はいねえが、それは間違いなくある。みんなはそこをこう呼ぶんだ。呪われた村と・・」

 

 僕たちが見ている場所は、きっと間違いなくそのあたりだろう。


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