湯けむりの中で ⑤
ホテル直営のレストランで、元気もりもりコースといわれる所以の夕飯を食している僕たち。
名前のとおり、スタミナがつくといわれる食材がふんだんに使われていて、その後の夜の秘め事を盛り上げるための食事となっている。さすが子作りの湯を名乗るだけはある。
食材のよさを生かしながら、カップルでの会話がはずむように、おしゃれな盛り付けがほどこされ、逆にスタミナ食材の王道ともいうべきニンニクやニラなどは、匂いの観点から、その後の行為に影響を及ぼすことを考慮し、使われていない。なかなか、よく考えられたメニューになっている。
ただし、コースの料理を運んでくるウェイターから、いちいちその効能を説明されるのは、子作りをする目的がない僕たちからすると、どうも赤面をしてしまう。
デザートの後でウェイターが、液体の入った小瓶を4本トレーに載せてきてきて、「こちらは当ホテル自慢の精力剤でございます。飲まれましてから2時間後には、ギンギンのバッキバキでございまして・・」と丁寧な説明されたが、丁重にご辞退させていただき部屋へと引き下がった。
長ソファーの上で寝ていた僕は、真夜中に目が覚めた。どうにも寝苦しさを感じ、寝ようとしても、寝付けない。
そういえば建屋内の大浴場に入っていたとき、このホテルには混浴の露天風呂があると、客の誰かが言っていたっけ。別に混浴はどうでもいいけど、夜半の涼しい風に吹かれながら風呂に入り、寝汗を流したくなった。
こんな夜中だし、どうせ誰も露天風呂など入っていないだろう。みんなベッドで寝ているし、一人でサッと行って堪能することにした。
案の定、僕より他に客はなく、この時間だけは石造りの屋外大浴場を独り占めだ。
露天風呂のところどころに、かがり火がたいてあり、その炎は、ここが自然と人間の世界の中間点だと印されているように感じる。
満天の星の輝きという素敵なショーをながめながら、無心で湯のぬくもりを味わっていた。
だが、静寂を破ってガヤガヤとこの場に一団が現れた。
その一団は40~50代の、おばさま4人組で、僕を見つけると、「ほほほ、こんばんは」と言いながら、僕を包囲した。
ここでいきなり湯から上がるということが悪いと感じてしまう性格の自分は、少々の時間だけいてからでようと考えていたが、それが甘かった。
まずは質問攻めの刑だった。入れ代わり立ち代わり色々な情報を僕から抜き取っていく。
そこで、僕が独身者であることが分かると、おばさまたちの目の色が変わったのを感じた。
湯けむりの中、メスライオン4匹に狙われるインパラの僕、という図ができあがる。
夕飯の精力剤は飲んだの?だの、夜は何回戦まで行けるの?だの下品路線に話が突入し、楽しそうに笑うおばさまたちをしり目に、かれこれ一時間以上は湯につかりっぱなしで、さすがにのぼせて目まいがする。たまごだったら茹で上がっているところだ。
だんだん、おばさまたちのボディタッチ攻撃が増え、僕の太ももに手が伸びてきたのを機に、「じゃ、僕はそろそろ!」と叫ぶように言って、その場を抜け出した。
どこをどう歩いたか覚えてないくらい、湯にのぼせフラフラしたまま部屋へとたどりついた。
そのままベッドに横になると、気絶をするかのごとく記憶が途絶えたのだった。




