湯けむりの中で ④
「さっき幸せの資格がないなんて言ってたけど、人の幸せの資格なんて誰かが決めるものじゃない!それは自分の運命の中で頑張ってつかむことなのよ!罪がある人が幸せを求められないなら世界中の誰も不幸の中で生きていかなくちゃならないわ!」
ペーリーさんは、ファンさんが罪を償う意識が高く、自分の幸せをないがしろにする姿勢が気にいらないようだ。
「ファンおねえさまは、さっきとても可愛らしく輝いた顔を見せたわ。それを求めたっていいじゃない。あたしだって、魔に傾倒して悪いこともいっぱいしたけど、どこかにある幸せを求めてる!それって悪いの!?駄目なことなの!?」
怒った顔に涙をためて立ち上がり、懸命にファンさんに問いかける。だが、毒を出して気が抜けたのだろうか、フッと笑うとソファーに座りなおした。
「ごめんなさい、あたし仲間になって日が浅いのに生意気なこと言って。ファンおねえさまの過去を、よく知りもしないで怒っちゃた。だけど、おねえさまが好きだからさ、幸せになってほしいんだな~」
下を向いてうつむき、涙をにじませているファンさんを、ペーリーさんは覆うようにして抱きしめた。ファンさんも応ずるように、ペーリーさんに腕をまわす。
今もそうだけど、ファンさんは泣くときに声をあげないのは我慢をするくせがついているのだろう。強さと悲しさの同居する彼女を見ると、目がうるっときてしまう。
「ライスっち、ちょっと」
ガイターさんが腰をあげ、僕をロビーに行こうとさそう。そうだよね、ここは二人だけにしてあげたほうがいいよね。
僕も立ち上がると、「ちょっと外しますね」と言い残して部屋を出た。
そして、ガイターさんと一緒にロビーに向かい、そこにあったバーカウンターで一息いれることにする。
二人で高椅子に並んで座り飲み物を注文したが、なんか、アルコールを飲みたい気分になったので、二人でロックウィスキーを注文し、グラスに口をつけた。
「さっきはビックリしましたね」
「んだな」
ガイターさんはグラスのウィスキーをガバッと飲み干すと、
「ライスっちには前にも言ったかもしれねえが、オラ以前、ファンのこと好きだったけれど、その感情はファンが結婚した時に区切りをつけただ。だから今の気持ちは、かわいい妹が幸せになって羽ばたいてほしいってとこだぁ」
隣に座るガイターさんを見ると、二杯目のウィスキーの琥珀色を映し出す氷を見つめ、笑みを浮かべている。
「ペーリーはオラが言いたかったことみんな言ってくれただ。やはり男ではあんなこと言えねえべ。まあ、ファンは馬鹿真面目なところがあるから、今すぐどうこうってことにはなんめえが、まあ、くさび打ったぐれえにはなったんでねえかな」
と、ガイターさんは語る。なんか、みんな大人なんだな~と、自分の心の幼さを感じていると、
「あ~、ずる~い。二人でなんか美味しそうなの飲んでる~」
とペーリーさんの元気な声が聞こえた。
そちらを振り向くと、ペーリーさんに手をひかれたファンさんが、僕たちのほうへやって来る。
「あー、すまねえだな。そうだ、みんなで飲みなおすべ」
「そうですね、乾杯でもしますか」
僕たちの席の間にペーリーさんとファンさんを入れて、皆でグラスを持つ。
「ところでライスさん、なにに乾杯するの?」
僕はみんなのことを見ると自然に言葉が出て来た。
「出会いに」
「ライスさん、なんかかっこいー!じゃ、ファンおねえさま発声してください!」
「わ・・わたし?」
「ええ、ぜひお願いします」
僕がうなずいて彼女を見ると、ニコッと笑ってグラスを差し出す。
「じゃ、みんなとの出会いと、これからもよろしくってことで!かんぱい!」
ファンさんに続いて僕らも発生の声をあげ、グラスをカチンとくみ交わした。
その場には、僕たちの楽しい夕刻でのひと時が、確かに描かれていたのであった。




