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湯けむりの中で ③

 部屋に通された僕たちであったが、この部屋に来るまでの廊下には、あちこちでイチャついている人たちがいて目も当てられず、部屋に入るなりフーっと、ため息のような深呼吸をおこない息を整えた。

 この部屋は、入口をはいったところにリビングがあって、そのリビングの左右それぞれに寝室があるのだが、どちらもキングサイズのベッドが一つづつ。

 女子のほうは二人で一つのベッドでもよかろうが、僕のほうは、さすがにガイターさんと一緒にねるというのは気色がよくない。そもそもガイターさんは体が大きいので、キングサイズでもシングルベッドに見える。

 まあ、このリビングの長ソファは結構大きいので、僕のほうは、今日はここで眠らせてもらおうと思う。

 ローテーブルをはさんで二つある、その長ソファに僕たちは腰をおちつけた。

「またすごいところに来ちゃいましたね」

「んだな。人気がある宿って村長さん言ってたけんど、まさかこうとは思わなかったべ」

「でも、赤ちゃん授けてもらいたい人たちって、いっぱいいるのね。そんなにこの温泉って効能があるのかしら?ファンおねえさま、温泉入っただけで赤ちゃんできちゃったらどうします?」

「えっ!赤ちゃん・・」

 冗談めかしたペーリーさんの質問であったが、ファンさんは自分のおなかをちょっとさわったあと、遠い目をしてなにかを空想をしている。すると今度は、一瞬ではあったが、ちょっとだけ赤くしたほほを両手で押さえ、ニコッとはにかんだ。

 空想の中で、赤ちゃんと対面でもしたのかという感じで、それは、今まで一緒に旅をしてきた中で初めて見る表情だった。

 幸せを詰め込んだようなその表情は、なんとも可愛らしくて、僕の心がしめつけられるような感覚を覚える。

 だが、皆の視線を感じたのだろうか、ファンさんのその表情は一転、悲しい目をおびて、

「わたし、なんか幸せなこと想像しちゃった。そんな資格ないのにだめね」

 と寂しく笑ってつぶやいた。

 その言葉に、沈黙と白い空気がその場に流れたが、ペーリーさんが、

「ファンおねえさま、あんたバカじゃないの」

 と、いう強烈なセリフで、その白い空気を引き裂いた。ファンさんも呆然とした顔でペーリーさんを見ている。

「あたし元々口が悪いし、別に弟子になったわけでもないから言うけどさ、何百年も前の国を滅ぼしたこと悪いことしたって十字架せおって生きてるわけ?」

 これは、ファンさんの心の闇の部分のことだ!これは言っちゃだめだ!

「ちょっと、ペーリーさん!あんた・・」

 立ち上がろうとした僕を、隣に座るガイターさんが、黙ってろという感じで片手で制され、ソファーにそのまま座らされた。

「きっと、おねえさまは性根がやさしいんだよね。だけどね、この世界に生きている人間なんて、全て罪人だよ。国があるってことは、先祖が戦争して人殺しして土地をぶんどったってことじゃない。子孫に罪がないなんてことはない!もっと極端にいえば動物や植物を殺して食べているあたしたちは、すべて罪人なんだ!」

 怒ったようなペーリーさんの声が、部屋の中に響いた。

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