湯けむりの中で ②
「あらら~、ファンおねえさま。節度はお守りになりませんと」
ペーリーさんのニヤッとした声に、僕はハッと我に返った。それはファンさんも同じだったようで、あわてて僕の腕から抜け出る。
「ご、ごめんなさい、ライス君。いきなりヘビが出てきたから・・」
「は、はい、大丈夫です。ヘビのせいですよね、ハハ」
謝るファンさんに、訳の分からない返事をする僕。
「ガイターさま~、こうなったら、うちらも負けられないです。ファンおねえさまみたいに、お姫様だっこしてください」
「バカなこと言ってんでねぇ、こら、うで組むな」
「もう、ガイターさま、恥ずかしがって~」
二人の会話に呆れてしまうが、ファンさんは、ほほを赤くして黙り込んでしまった。
多分にぎこちなさを感じながらも、目的地に向かい少しづつ進む。
すると遠くに目的のホテルが見え始め、次第にその様相がはっきりしてくる。
やっと到着し、玄関に向かっていったところに看板があった。
『バシフ村営ホテル ~子作りの湯~』
その字を読んだせつな、僕たちは固まってしまった。子作り?なんだ、ここは・・
固まる僕たちのそばを、一組の夫婦らしき人物が通りすぎようとしたところで、声をかけられた。
「こんにちは、あなたたちも子宝を希望してこられたんですね。ここは、子供を授かれるって有名なところですからねえ。じゃ、みなさん頑張ってください」
と、さわやかな挨拶をして去っていった。
・・・そ、そういうところだったのか。頑張ってくださいって、まあそういうことなんだろうね・・
意気揚々としていたペーリーさんでさえも、戸惑いをみせ固まっている。
どうしてよいか分からず、その場で右往左往していたが、
「こんなところでウロウロしていても、どうしようもないわ。みんな気にしないで行きましょう」
と、ファンさんが先陣をとり、玄関をくぐって受付けへと進む。
受付で、村長からの紹介状の封筒を渡すと、中を確認した受付のおばさんは、
「どうも、お疲れ様です。村長から、ご夫婦二組、元気もりもりコースでご一泊させるようにとのこと、確かに承りました」
と言い、深々と頭を下げた。
村長さん、僕らお金を届けにいったとき、あなたの目には僕らが二組の夫婦に見えていたってことなんですか・・?
「あの、よくわかりませんが、わたしたち、その元気もりもりコースというのじゃなく、普通に泊まらせていただくだけで結構ですので・・」
ファンさんが、その怪しげなコースの訂正を申し出ると、
「またまた奥様~、そんな恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ!だんな様方なんか、楽しみで仕方ないって顔なさっているじゃありませんか」
と、おばさんは笑顔の中に、ニヤッとした笑みを含めて言い放つ。
どうみても、ファンさんは恥ずかしくて断っているようには見えないし、僕とガイターさんもそんな好色な顔はしていない。
このバシフ村というのは、村長をはじめ、なぜ勘違いをする人が多いのであろうか・・。更なる勘違いをおそれ、なにも言えない僕たちであった。




