表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/117

湯けむりの中で ①

「いや、これはこれは、ほんとに有り難いことでございます」

 バシフ村に到着した僕たちは、盗賊がこの村から巻き上げたというお金を返しに、村長と面会している。

 村役場にて、村長は至極丁寧に対応してくれているが、あまり村ではお金に困っているという感じでなくて、返したお金も寄付につかわせていただきましょうと言っていた。

 そもそもこのお金は、盗賊などが来た時に、村人が襲われるのを防ぐため、すぐに差しだして、盗賊に去ってもらうようストックしておいたものだという。

 村の家々も、壁に高価なレンガを使っていて、生活が潤っているのが見て取れる。

 こんな山あいの村で、どうしてこんなに豊かなのか不思議だったので聞いてみると、この村から2時間ほど歩いた山中に村営の温泉ホテルがあって、そこの利益がかなり出ており、村全部がその恩恵を受けているということだった。

「そうだ、あなた方も、せっかくこの村にお金を届けにいらしてくれたんだし、一泊して、温泉につかって、疲れをいやしていかれたらいかがです。お金を届けてくれたお礼ということで、無料にしておきますから」

 と、有り難い申し出をしてくれる。

「え~、ほんとですか?お風呂も川で水浴びが続いたし、温泉つかりた~い」

 と、ペーリーさんが無邪気に言う。

「ええ、今は午後3時だから、2時間歩いて夕方には到着できるでしょう。では、こちらがワシの紹介状になりますので、受付けで見せて下さい」

「ほんと、こちらにはお金をお渡しにまいっただけなのに、逆にお気をつかわさせてしまいすみません。ですが、せっかくですので、有難くご厚意に甘えさせていただこうと思います」

 ファンさんが丁寧に頭を下げると、

「いえいえ、こんなことしかできませんが、どうそ、ごゆっくりしてきて下さい。これでなかなか人気のある宿でして、まあ、よかったら他で宣伝でもいただければ」

 と、村長は笑顔で答えてくれた。

 思わぬところで、幸運を授かった僕たち。現地へ行く道は山道らしいので、荷馬車を役場で預かってもらい、徒歩で行くことにした。

 村からその宿というのは一本道だそうで、迷子になることはないらしい。民家のある場所を抜けると、農地が広がり、更にそこを抜けると、道は山へ吸い込まれるように続いている。

 山の中の道は砂利道ながらよく整備されていて、山の自然を楽しみながらも、温泉ホテルまで行く客が、苦にならないよう考えられている。

 山の中に入ってから、30分ほど歩いていたときだった。

 突然、となりを歩くファンさんが、僕の首に腕をまわし抱きつき体を預けてきたので、僕はとっさにファンさんを抱えあげた。

 その体勢のまま、ファンさんは地面を見ると、「ヘビが・・」と、小さい声で言う。

 ああ、ヘビが怖かったのか。全然、悲鳴をあげないので、なにがおこったのか分からなかった。

 そういえば、前にガイターさんに聞いた話しでは、ファンさんはヘビに咬まれて死にかけたことがあったそうだ。それでヘビがトラウマになっているのかもしれない。

「あ~、これは山ヘビの子供だべ、毒はねえヘビだぁ」

と、ガイターさんがヘビを捕まえ、森の中にポイッと放り投げた。

 ファンさんはほっとした顔で、僕のほうを振り返った。

 女の人をこんな風に抱っこするのは初めてで、華奢で軽いんだなと思ったが、なによりファンさんの顔をこんな間近で見て、改めてその美貌に圧倒されていた。 

 白くてきれいな肌に吸い込まれるような瞳、整った鼻に、キリっとしながらも、やわらかそうな唇。それらを引き立てる美しい黒髪。

 僕の時間の流れが止まったような気持になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ