暗黒魔女 ファン・エレート ⑤
草原を抜けると小さな町が現れた。
ここでファンさんとお別れできるかな~と淡い期待をしていたが、
「あら、ライス君ったら!か弱い女性をこんな場所に置いてきぼりにする気なの!」
と、突っ込みどころ満載の言葉を吐かれた。
同行を断る勇気もなく、もう流れにまかせることにするしかない。
町の人に聞くと、アリーダ王国の首都はそれほど遠い場所ではないとのことなので、一気に首都まで行くことにした。
その前にやることが二つ。
まず、ファンさんに服装を変えてもらうことにした。ファンさんの装いでは、あからさまに魔女だと分かってしまう。少しだけでもごまかさねば。
僕は町の洋服屋で、白地に赤い花柄のワンピースと女性用の麦わら帽子、かわいらしくて歩きやすそうな靴を買い、ファンさんの元へ持っていく。
「どうしても着替えなくちゃだめ?」
小首をかしげ、甘えたような声をだしたがこれは譲れない。
「お願いしますよ!そのままだと正体がすぐ分かって大騒ぎになりますよ~」
「そう、ライス君がどうしてもって言うなら着替えるわ」
ふ~、わかってくれたか・・って、
「わーー!ファンさん!ここで服を脱がないでください!人目につかないとこで着替えてー!」
僕の目の前で黒いドレスをまくしあげ、白くて細い胴が見えているファンさんを必死に制した。
「もう、注文が多いのね」
そうポソっと言うと、ひと気のない木陰のほうへ行くファンさん。
あ~つかれる・・
着替えて戻ってきたらきたで、
「胸の周りが少しだけキツいのだけど、わたしそんな無いように見える?」
なんてことを言う。
「すいません、すいません、女性の服なんか買うのはじめてでよくわかりません!」
「いいのよ、そんな赤くならなくて。ライス君のプレゼント、大切に着るわね」
はぁ、もうかんべんして。でも、ファンさん元々美形なのが服と相まって、女優みたいな雰囲気だ。別な意味で目立っちゃいそうだ。
まあ、いいか。気をとりなおし、次の作業だ。
次は、荷車の食材を軽くすることにした。そもそも30人分の食糧を積んだ荷車だ。僕たち2人だけでの消費なので、まだまだ大量に食材が残っている。
僕は残りの食材で軽食を作り、人の往来が盛んな通りを見つけ、そこで売ることにした。
ファンさんが、「通行中のみなさん!安くておいしい軽食がありますわよ、よかったらお買い求めください」と呼び込みをしてくれた。
その効果は絶大で、男どもの群れが僕たちをとりかこみ、あっという間に売り切ってしまった。
これで身軽になったし、いよいよ出発して首都をめざそうと思う。
「ファンさん、おかげさまで、食材を売り切ることができました。アリーダ王国の首都に行ったら、このお金で一緒に食事をしましょう!」
「そうね、楽しみにしてる」
ファンさんはニコリと笑みを浮かべた。
暗黒魔女ファン・エレートか。最初はよくよく怖かったけど、少しは慣れてきたような気がする。町での夕暮れ、ちょっとだけそう思った。