マリュフ騒動 ②
みるみる巨大な穴を掘っていくガイターさん。まるで機械のように動く両手。かといって無作為に動いているわけではなく、時折、菌糸の状況を見たり、砂が崩れないよう水をかけて壁を固めたりと、繊細なところをみせている。
「しかし壮観ですね~」
「わたしもガイターがマリュフを採るところは初めて見るのよ」
「ファンさんは、以前にガイターさんにマリュフをもらったことがあるって言ってましたけど、そんなに美味しいものだったんですか?」
「ええ、当時っていってもかなり昔のことだけど、この世にこんなすごい食材があったんだって思ったことを覚えているわ」
グルメのファンさんにして、そう言わしめるのだから相当のものに違いない。期待を大きく膨らませ、ガイターさんの動向を見守っていた。
「おー!見つけたどー、3個もあっただー!」
と、突然に穴の底からエコーのかかったガイターさんの声が聞こえてきた。上から穴を見下ろすと、ガイターさんがかなり小さく見える。相当深く掘ったようだ。
砂まみれの彼は、フーフーいいながら穴から這い出てくると、
「いや~、こんな初日で見つかるなんてラッキーだべ。ほらこれがマリュフだぁ」
と、手のひらに黒い3個のかたまりを置き、僕に見せてくれる。
「すごい鮮烈な香りね~、採れたてってこんなにも匂うのね」
「んだな。ほれ、きれいに洗ってと」
水入りのビンを手に取ったガイターさんは、それでマリュフを洗い、1個づつ配ってくれた。
「ありがとうガイター、なんか陶酔しそうになるわ」
「ほんと、苦労のかいがある香りだぁ」
ふたりとも、マリュフの香りを堪能し、それに酔ったような表情をしている。
しかしだ。
僕は懸命に匂いをかぐものの、とりたててこれという香りがしない。なんとなく土のような匂いがするだけだ。
なぜ?
あらためてふたりを見ると、ガイターさんは、マリュフを割って中の断面をペロッとなめている。
「うわ~、これはすごいべ!生のマリュフの味、最高だぁ!」
「ほんと!言葉に出来ないくらいね!」
と、ファンさんも後に続き、割ったマリュフをなめだした。
なにか不審な気持ちながらも、僕もマリュフを割ってなめようとした時、ガイターさんが声をかけてきた。
「ライスっちは、なめんの止めたほうがいいんでねえか?」
は?真意がわからず、どうしてなのか問うと、
「マリュフっていうのは魔に類する者しか、そのよさがわかんねえべ。例えるなら、猫にマタタビと同じだべ。生理反応みてえなもんだべか。ライスっちは純粋な人間だから、マリュフなんか口にしたらどうなるか分かんねえべ」
「・・・・」
なんですと?・・それでは僕はいったい・・
ファンさんを見ると、美味いものをなめているというより、なにかに酔っているような表情をしている。そのうちニャーとでも言いだしそうだ。
しかし、なんのために2か月もかけてマヒワリ国なんかに来たのか・・
茫然自失になりながら、僕は一人、その場を離れたのであった。




