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特別な能力 ③

 でっぷりと太った家主は、用心棒のような男とテーブルにどっかりと腰をおろし、ヒソヒソとなにやら話している。

「どうも、はじめまして。本日の料理を担当させていただきます、ライス・オーモリ―と申します。よろしくお願いします」

 僕は、半ば強引に家主の手を握り、握手を交わした。

「お、お、そうかね、じゃあ、すぐにでもとりかからんか」

 その時点で、すでに頭の中に映像が浮かんでいた。

「では、調理のほう始めさせていただきます」

 厨房で、パスタ、塩、胡椒、たまご。たったそれだけの材料で、スパゲティをつくる。

 出来上がりは、それこそ質素なカルボナーラ。

 おかみさんは驚いてつぶやく。

「こ、これをお出しするの・・ですか・・」

「ええ、僕がもっていきましょう」

 トレイにパスタを乗せ、家主のところに持っていく。

「こちらが本日の料理でございます」

 二皿を、れぞれ家主とその用心棒の前に配した。

「なんじゃー、これは!こんな貧乏くさいものだしやがって!」

 いきなり怒鳴り散らす用心棒。

「おまえらがチャンスをくれというから仕方なく認めてやってんのに人をバカにしてんのかー!」

 用心棒の顔に青筋がうかび、それがピクピクと動いている。

「ま、まて」

 家主は手を用心棒のほうへ向け、大声で吠えるのを制止させた。

 顔に脂汗をうかべ、動揺する顔で僕の方を見る。

「あ、あ・・あんた・・これは・・」

「どうぞ、温かいうちにお召し上がりください」

 僕の言葉に、震える手でフォークを握る家主。

 パスタをくるりと巻き付け口へと運ぶ。

 すると、うっ、うっ、うっ、と嗚咽をあげたかと思うと、皿を口へ直につけ、フォークをスプーンのように使い、ガッガッっと流し込んだ。

 ものの2~3分でパスタを食べ終えた家主は、空になった皿をみつめ、

「かあちゃん・・」

 と、ポツリつぶやき、そのままスッと立ち上がって部屋を出ようとした。

「あの~、この宿のほうは・・」

 おかみさんが、おずおずと聞くと、

「わしはここから手を引く。あんたの好きにしなさい」

 と弱々しい声で返事し、思い出したように僕のほうに振り返り、丁寧に頭を下げたあと、くるりと回って部屋を出て行った。

 おかみさんからは、何度も何度も頭を下げ礼を言われた。

 最初に粗末なパスタの映像が浮かんだ時、これを作って出すのかと半信半疑でいたが、どうやらあのカルボナーラは、家主にとって母親との思い出の料理だったようだ。

 ファンさんとガイターさんのところに戻って経緯を話すと、

「やったね、ライス君!」「おー、ライスっち、さすがだべ」

 と、喜んでくれて、改めて乾杯することにした。乾杯の飲み物は、ここのおかみさんが差し入れてくれた高級ワインだ。

 僕にはこの自分の能力がなんなのかは一つも分からないが、この先この力が、いろいろな事件に絡んでくるなどということは、その時は知る由もなかった。


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