特別な能力 ②
宿の食堂で夕飯をいただくため、僕たち3人で席に座って待っていると、宿のおかみさんが泣きはらしたような目をして料理を運んできた。
気の毒のように感じたので声をかけてみた。
「失礼ですけど、なにかあったんですか?」
おかみさんは、えっ、という表情を見せたが周りをキョロキョロと見回すと、おずおずと状況を言い始めた。
「実はとなりの部屋のお席にいる方なんですが、この建物の家主さんでしてね、この宿の営業を続けたければオレを納得する料理を出せ、でないと営業を続けさせるわけにはいかないって言われてしまいまして・・」
「じゃあ、すばらしい料理をだせばいいんじゃないですか?」
「実は、以前に一度、同じことを言われたことがありましてね、町で有名なコックさんに料理をお願いしたんですよ」
「ところが、あの方はいろいろ難癖をつけて、この料理は失格だ!と烙印を押しました。頼みこんでもう一度と最後のチャンスをいただきましたが、これではどんなコックさんをよんでも同じで、どんなに極上の料理を作っても難癖をつけるに違いありません。きっとこの宿を潰したいのでしょうね。でもこの宿は、死んだ主人がとても愛していた場所でして、あたしはこのまま宿を続けさせてもらいたい。それで途方にくれている次第でございます」
悲しそうに首をうなだれるおかみさん。
「それはヒドいだべ。オラが怒鳴り込んでやってもいいど」
「よしなさいよガイター、もしあなたが怒ってあばれでもしたら、この建物ごと潰されちゃうわ」
二人は視線を合わせ同時に僕を見る。
「やはり料理の話しでは、ライス君が出るしかないんじゃない」
「んだ、ライスっち、ここは腕の見せ所だべ!」
二人の言う通り、料理だけの話だったら、ぼくが出ていくのがいいのだろうけれど、でも、どれだけ美味いものつくっても、宿を潰すのが目的みたいだからなあ。
そこでふと思いつく。
あ、そうか、例の能力を試してみるか。
僕が椅子から立ち上がると、
「さすがライス君。がんばって」
ニコリと笑って、軽く拍手をするファンさん。
「おかみさん、この人の料理ははんぱでねぇ、大船にのったつもりで安心してけろ」
勝手な事を言って親指を僕のほうにグイと突き出すガイターさん。
このままでは、おかみさんが気の毒だしやるだけやってみようと思う。
「ぼくは、マクレチス国でシェフをしてました、ライス・オーモリ―といいます。勝算があるわけではありませんが、おかみさんがこの宿が続けられるよう、微力ながら協力したいのですがいかがでしょうか?」
いきなりの客からの申し出に、最初はキョトンとしていたおかみさんではあったが、溺れる者は藁をもつかむの心境であったようで、料理づくりを懇願された。
早速、僕はおかみさんから借りたコック用の服を着こみ、となりの部屋にいるという家主のところへ向かった。




