暗黒魔女白書 ⑫
だが、そうしている間にも、レーカーの姿が薄く透明になっていく。
「そう、まもなく時間なんだ。ファン、君にひとつ頼みがあるんだよ」
もうすぐレーカーは消えてしまう。わたしは彼の頼みを聞くべく耳を傾ける。
「ここにいる少年は、どうやらぼくの遠い親戚にあたるようなんだ。ファン、君の力でこの少年を守ってやってくれないか?」
「守る?」
「そう、彼は自分で気がついていないが、特別な能力をもっているんだ。その能力によって、彼の命が危ぶむ事態がおきるかもしれない。だから君に力添えをしてもらいたいんだ」
笑顔でわたしに話すレーカー。わたしに断る選択肢はなかった。
「わかったわ、レーカー。約束する。できる限り、わたしの力をこの子のために使うわ」
わたしの返事に安心したのだろうか、レーカーは安堵の表情で笑った。
「ファン、さようならだ。辛いこともあるだろうが人生を大事にしてくれ。ぼくは君に出会えて幸せだった。ありがと・・」
最後の感謝の言葉が終わらないうちに、レーカーは空気のように透明になって消えていき、わたしは元の場所に立って、フライドチキンを握っていた。
(レーカー、ありがとう。最後の力をふりしぼって、わたしに会いにきてくれたのね)
消えてしまったレーカーに感謝の言葉を思いながら、わたしはどん底から這い上がろうとする。大罪を背負って生きる決心をした。魔女の心など残っていようがなかった。
もうレーカーには会えることはないだろうが、彼をを悲しませないように歩まなければという気持ちでいっぱいだ。
だが、ハタと考えた。
この少年を守ると約束はしたものの、この子が家に帰ってしまったらどうする?
わたしがそこまで着いていって、この少年の家に転がり込むなんて、とてもじゃないが、そんなつきまとうような恥ずかしいまねは出来ない。
考えると、一緒に旅をするというシュチュエーションが、一番ベストかと思う。
それにしたって、一緒に旅をしましょうって言わなければならない。
なんか勢いで、この子を守るって約束してしまったけれど、今になると、大変なことを約束してしまったなと感じる。
ま、今更そんなことを言っても仕方がない。
とりあえず、親密さを出すために、彼のことを「ライス君」と呼んでみた。
案の定、彼は、いきなりこの人なに言ってるの?みたいな顔をしている。
は、はずかしい!
そうよね、わたし今まで生きてきて、こんな初対面の人に軽々しく「~君」なんて言ったことなかったしね。
でも約束のため頑張るしかない!
わたしは恥ずかしさをこらえ、必死になって、彼と旅をするように仕向けてきた。
たぶんレーカーは、ライス君を守ってくれと言ったのは口実で、わたしにあの大草原を出なさいと促してくれたのだと今になって思う。
最近は旅を楽しんでいる自分がいることを自覚したりなんかしている。これでいいのかな、なんて思ったりもする。
わたしが昔のことをボ~っと思い出していたら、
「ファンさん、夕飯出来ましたよ!こっちに来てください」
と、ライス君から声がかかった。
わたしはハッと我にかえる。
あ、そうだ、今、山小屋にいたんだっけ。
今までの人生が走馬灯のように、頭の中をかけまわっていたことが、なんか可笑しくてクスっと笑ってしまった。
外は満天の星空。
これからどうなるのか分からないけれど、とりあえず無事に旅が続きますように、と、まばたきする星々に祈り、ライス君がつくってくれた夕食を食べに食卓へむかった。




