暗黒魔女白書 ⑪
わたしは彼の顔をじっと見つめる。まだ幼い感じだけどレーカーとよく似ている。なんだか妙な心持ちだ。
じっと彼を見ていると、彼の周りから食べ物の匂いがただよってきた。どうやら彼が腰に提げている袋からただよってきている。しかもこの香りは・・・
わたしは彼にそれを見せてくれるよう頼むと、その中身は、やはりフライドチキン。それもレーカーが大好きだといった故郷の味付けの風味がつけてある。あまりの懐かしさに涙がこぼれそうになる。
どうしても我慢できなくて、彼に一応ことわりを入れてから、そのフライドチキンをいただいた。
恥ずかしいので彼に背を向け、チキンを見つめていたときだった。
フッと、わたしの意識がわたしの体を離れた。
すぐそばに、わたしとライス少年がいる。
これはいったい?
戸惑うわたしの後ろから、とある声がかかった。
「ファン、久しぶりだね」
ああ・・ああ・・
声をかけて来た人物はレーカーだった。
彼がいる理由なんかなんだっていい。
瞬時にレーカーに抱きつき大声をあげて泣いた。わたしの涙はかれていなかったようだ。
「ファン、かわいそうなファン、今までつらかったろうね」
やさしく頭や背中をなでてくれるこの手の感触は、間違いなくレーカーのものだった。
ひときしりそうした後、彼はわたしの体を離し、代わりに手を握った。
ああ、目の前には間違いなくレーカーがいる。あの大好きな笑顔でわたしを見てくれている。
「・・レーカー、わたしあなたに会いたかったの、ほんとに会いたかったの、夢見てるみたい」
彼はうなずくと、わたしのほほに手を添えた。わたしは甘えるように、自分のほほをその手にうずめる。
「ファン、ぼくも会いたかった。夢のようだ。だけど、あまり時間がないんだ」
「これっていったい?」
「うん、ここはね、ひらたく言うと夢の中のようなところ、別の次元なんだよ。君の魔女の能力と、ぼくの残留思念と、ここにいるライス少年というぼくの血脈者、様々な条件が一致して、はじめてこの空間に君を招くことができたんだ。だが、その時間はわずかでしかないようだ」
「わたし、このままずっといたい!」
「ファン、わかってほしい。ぼくは死んだ人間なんだ。君は君の人生を歩まなければ」
わたしは再度レーカーに抱きついた。わかっている。分かっているけどどうしようもないの・・




