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暗黒魔女白書 ⑩

 それからの出来事は詳しく話すまでもない。

 わたしはこの国にあった都市という都市、全てを破壊してまわった。罪のない大勢の人々も、あやめてきた。

 一度、ガイターが声をかけてきたことがあったが、鬼と化した魔女のわたしに睨まれると、彼もまた魔神の血が目覚めてしまった。

 この時ばかりは、心のすみにいたわたしが表に這い出ようとしたが、表に出ている魔女が、引っ込んでいろとばかり、わたしを心の奥に閉じ込めた。

 やがて、この国のなにもかもが無くなって、地には草が生えだし、やがて大草原へと変わっていった。 

 怒りの対象が消えつくすと、魔女の心は勢いをひそめ、ほんとうのわたしの心が表に出ざるを得なくなってきた。

 だけど、わたしの心はわたしが表にでることを拒んだ。正気になることが怖かったのだろうと思う。

 チロチロと残る魔女の心を盾のように押し出し、その心に従ってフラフラと草原をさまよい、建物のかけらなどを見つけては粉々に砕いてまわり、出会う人間は石へと変えていった。

 いつしかわたしには暗黒魔女という忌み名がついて広まっていった。

 毎日、夜がつらかった。草葉の陰で眠っていると、夢にレーカーがあらわれて、わたしにあやまってくるのだ。それでいつもハッと目覚め、暗闇の中で周囲を見回し、レーカーがいない現実を思い知る。

 わたしは立ち上がり、誰もいない草原で夜空を見上げ、泣きながら叫ぶ。

「星たちよ、そんなきれいにまたたかないで!レーカーに会いたい!会って抱きしめてほしいの!」

 だが、わたしの慟哭は闇にすいこまれ、孤独をつきつけられる。そんな毎日だった。

 あれから二百年はたっただろうか。

 盾のようにつかっていた魔女の心はほとんどはがれ、わたしの心が表立ってわたしの体を操ってはいたが、以前と変わらず夢遊病者のように草原をふらつき歩いていた。

 もう後戻りできない現実に、やけくそな気持ちだった。

 ある日のこと、丸まった紙が風に流されわたしのほうに向かってきた。それは捨てられた新聞の一枚であった。

 なんとなくそれを拾ってみたら、そこに載っていた写真に目を奪われた。

 ライス・オーモリ―というラクサ村出身の少年が、若輩ながら料理のコンテストで優勝したという内容だった。絶対味覚をもつ天才的なシェフで、評判になっているという。

 そこにあった少年の写真が、レーカーによく似ているのだ。

 出身地や、オーモリ―という名前、人相の類似からして、レーカーとなんらかの血縁者だろうということは想像にかたくない。

 久しぶりに、わたし自身の心が反応した出来事で、強く印象に残ったのだったが、それから間もなくして、その少年と出会うことになったのは意外すぎた。

 いつものように草原をフラフラしていると、この地を横断しようとしている一団にでくわした。

 わたしの姿を見ると、大半は逃げ出したが、戦いを挑む者は石に変えた。

 そして、そこに最後に残っていたのが、前に新聞の記事で見たことがあったライス少年だったのだ。


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