暗黒魔女白書 ⑥
レーカーは兵の徴収に応じ、行ってしまった。彼は下手に逆らうと、わたしに害が及ぶ、それだけは避けなければならないと言っていた。
「心配しないで。僕だって死にたくないさ。危ないことは避けるよ」
でかける前に彼はいつものようにニコッと笑ってくれた。
わたしがその笑顔が大好きなことを知っていて、こんな笑えるところではないだろうに、わたしを安心させようとするために笑ってくれている。
「ぜったい、ぜったい戻ってきてね」
わたしの祈るようなその言葉に、彼はキスで返事をし、そして軍の集合場所に向かったのだった。
彼が見えなくなると、わたしは家を飛び出した。
わたしの足はガイターの家へと向かう。彼もいずれ徴兵されてしまうだろう。その前に会っておかなければ。
道の途中途中に兵隊の姿が見える。やはり戦争ははじまるのだ。
部屋の前についたわたしは、ダンダンダン!と、思い切りドアを叩く。行儀などと言っているところではない。
ガチャっとドアが開き、怪訝な表情で出てきたガイターだが、相手がわたしだとわかると、
「ファン、どうしただ、泣き顔で。なにかあっただか?」
と優しい口調で聞いてきた。ガイターのところには、まだ徴兵の話はきていないようだ。
わたしは部屋の中に入れてもらい、今朝からのいきさつを話す。
「じゃあ、レーカーは、今、心細いべ。どうせ早いか遅いかだぁ、オラ軍隊の集合場所さ行っで、レーカーと合流するべ」
と、早速、着替えをバッグに詰め込みだした。
いつも、わたしが困っていると、どんなときでも味方になってくれたガイター。
今も、レーカーを心配するわたしの表情を見て、動いてくれているのだろう。
わたしは、ガイターの前に行くと、その手を握った。
「ガイター、絶対死なないでね、あと・・、できるだけレーカーを守ってね・・」
と、身勝手すぎるお願いを口に出してしまった。
ガイターにわたしの都合を押し付けているようで心苦しい。でもこんなこと、ガイターにしか言えないの。
それでもガイターは「わかっただよ。だからファン、泣ぐでねぇ、レーカーが悲しむべ」
と答えてくれた。
幾度も心からありがとうの言葉がでる。
「じゃあ、オラいくだ」
ガイターもまた、戦地へ赴くため、わたしの前から姿を消したのだった。
一人とぼとぼと、自宅へと帰り、椅子にもたれる。
今日は、なにもする気がおきない。
明日はどうなっているのだろう。
とにかく、早く戦争が終わるようにと願った。




