暗黒魔女白書 ⑤
それは突然だった。
ある日の朝、街にラッパの音が鳴り響き、「開戦、開戦―!」と大声が聞こえてきた。
事情を確認しに行ったレーカーが帰ってきたので、今あった出来事を聞いた。
わたしたちが住むこの国と、国境を接する北の国で戦争がはじまるとのこと。北の国に近いこの街からは、若い男性は全て徴兵され戦争に臨まなければならないとのこと、だった。
そんな争いなど、わたしたちには関係ない。せっかく平和に暮らしているのに、そんなものに巻き込まれたくなどない。ましてやレーカーなど、ついこないだこの街にきたばかりだ。なんの関係もない。
彼とわたしとガイターの3人で、街を抜け出せないかしらとレーカーに言ってみたが、既に大勢の兵隊がこの街に駐留していて、脱走者を見張っているらしい。
しかし、ほんとうに戦争などおこるのだろうか?
そんな疑義を吹き飛ばすように、家の玄関がバタッ!っと開けられ兵隊が怒鳴ってきた。
「ここに、レーカー・オーモリ―はいるか!」
わたしと食卓で話していたレーカーが立ち上がり玄関へ向かう。
「僕がレーカーですけど、なにかご用でしょうか?」
「おまえがレーカーか。街の青年団から、おまえが逃亡を図ろうとしていると情報があり、確認にきた次第だ」
「そんなこと、ありませんよ。こうして家にいるじゃないですか」
「そうです。逃亡なんて考えてません。もう帰っていただけませんか」
妙な雰囲気に、わたしはたまらずレーカーの元にかけよる。それにしても、街の青年団の人達はひど過ぎる。昔から意地が悪かったけれど、ここまでとは。
「帰るわけにはいかん。軍のほうで逃亡対策のため、お前はすぐに徴兵に応じてもらうことになったのだ。今すぐ一緒に来てもらおう」
えっ!わたしは自分の耳を疑った。
「そ、そんな、今すぐなんてひどいです。まだ心の準備も・・」
レーカーが連れていかれてしまう。こんなにも急にあんまりだ。
「ほう、応じてもらえぬのか。国に対する反逆ということで、逮捕及び強制連行ということで処理を進めてよろしいのか」
「わ、わかりました。ではとうざの着替えだけ詰めますので10分だけお待ちいただけますか」
レーカーはあわててそう返答する。
「よろしい、では外で待つ故、急いで支度するがよろしい」
バタンとドアが閉められた瞬間、わたしたちは抱き合った。
「レーカー、わたしイヤ!」
「ファン、ぼくもだよ。君を一人置いて行きたくなどない」
なぜ、こんなことになってしまうのだろう。
わたしの中で、小さいけれど、やっと丸く美しくなってきた人生。そこに小さなヒビが入ってしまったようで、それが割れてしまわないように祈るしかなかった。




