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暗黒魔女白書 ①

 この山を越えると、いよいよマヒワリ国が目と鼻の先になるらしい。直前に寄った街の人たちはそう話していた。

 そして、その人たちの言ったとおり、中腹を過ぎたあたりで日は暮れはじめ、辺りが闇に包まれる直前、無人の山小屋に転がり込むことができた。

 この山小屋は、旅人のための簡易宿泊所だそうだが、今日泊まっているのは、わたしたち3人だけだ。

 ライス君は夕飯の準備にとりかかり、ガイターは馬車のお馬さんにエサを与えている。

 小さく粗末ながらも、わたしには暖かさを感じられるこの山小屋。その窓から夜空を見ていると、昔のことを自然に思い出してしまう。

 わたしの人生で、最も幸せだった日々。レーカーと共に山小屋で暮らした日々だ。思い返すと、それ以外は辛さしかなかった気がする。

 小さい時から、魔女だ魔女だと、憎悪と奇異の目を向けられ、泣かない日などなかった。

 父親と二人暮らしであったが、人間の彼には、わたしの存在がうとましかったようだ。だから外にも家の中にも、気持ちが安らぐ場所などなかった。


 わたしと同じようにさげすまれていた一人の少年、ガイター。

 わたしたちは、その能力もないのに、魔女だ、魔神だと、周囲からののしられ、見た目も人と変わらないのに、周りから受ける仕打ちに、お互いの境遇を話し、慰め合うようになっていった。

 彼は、いつもいつも、わたしを励ましてくれた。ほんとにガイターには救われた。感謝してもしきれない。

 なぐさめあった幼い日々が少しづつ過ぎてゆき、やがてわたしたちは成長期へと入った。その時期は最も辛かった。

 今まで、さげすんでいた男たちの目が、好色の目に変わっていった。わたしの胸や腰をなでるように見回し、どこかに遊びに行こうと口説いてくる。イヤで仕方がなかった。

 ガイターも成長期で体が大きくなってくると、粗野なところを見せることがあった。本来の彼はとても優しくて、人を傷つけるまねなど出来るような人物ではないのだけれど、執拗に受ける嫌がらせに、常に周囲を威嚇するような態度をとっている。

 わたしを守ろうとするガイターに、なん人もの男が殴られたのを見ている。それも辛かった。

 わたしを守ってくれる気持ちはとても有難いのだけれど、わたしのせいでガイターが人を傷つけるのを見るのは、とても悲しいことだった。


 ある日、どうしようも気持ちがいたたまれなくて、遠くに見えている山へ向かい山中へと入った。

 泣きながら奥深く進むと、そこにはわたしが探し追い求めていたような空間があった。

 

 立ち並ぶ木々の中の静寂。

 枝葉のすきまから入ってくる優しい陽の光。

 チロチロと流れる湧き水の音。

 ときおり聞こえてくる鳥の声。

 土と緑の安らぐ香り。

 

 倒れた倒木に腰かけ、スッと目をつぶると心が平らになっていく。

 今まで、山の中にこんな素敵な場所があったなんて夢にも思わなかった。


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