恐怖の一夜 ⑤
「反論?わたしは反論などする気はないわ。わたしは女を食い物にするあんたが気にいらないだけ。それだけよ」
「ほう、やる気かね。楽しみだ、わたしの人形になったらたっぷり可愛がってあげようじゃないか、未来永劫!」
その声を引き金に、吸血鬼とファンさんの戦いがはじまった。
距離をとった位置で、互いに呪文を唱え、魔法の攻防をしている。
その魔法がなんの魔法かなんてわからない。でも、お互いの間に、すさまじい光や風や音が飛び交っているのは分かる。
ガイターさんは僕を守るべく、僕の眼前で盾のように立っている。
その攻防はなかなか優劣がつかない。
優劣がつかないことに業を煮やしたのだろう、体力で勝る吸血鬼が前に進みでて、接近戦へと切り替えた。
ファンさんを捕まえようと、すごい速さで手をくりだす吸血鬼に対し、柔軟な体で、身を沈めたり反ったり、あるいは華麗な足さばきで、ヒラヒラとかわしている。
その攻防が続く中で、吸血鬼の襲い掛かる手がファンさんの左肩に軽く当たった。それはホントに偶然の当たりで、ダメージを受けた様子ではない。
だが急に、吸血鬼は繰り出す手を止め、静かにたたずんだ。
ファンさんは、大きくフーっと息をし、呼吸を整えている。
「ファン・エレートよ、お前の負けは決定した。お前は左目が見えぬようだな、そこに死角が生じるのだ」
その言葉にピクリと身を固めるファンさん。
ああ!まえにガイターさんが言っていた!ファンさんは失明したガイターさんを救うため、自分の片目を犠牲にしガイターさんの視力を戻したって!
吸血鬼は口を大きく開けてニタリとし、舌で自分の牙をなででいる。
身構えるファンさん。
そこにいきなり、ファンさんの左後方に女性があらわれて、ファンさんにしがみついた。
バチッバチッ!
強烈な光と音が、その女性とファンさんを包んだ。
その瞬間に「あぅ!」と小さな悲鳴をあげ、気絶してしまったファンさんは、床にドサッと崩れてしまった。
「その女は、雷の類に属する精霊でね、わたしのコレクションの一人なのさ。強烈な電撃に、しばし意識はもどるまい」
「ファ、ファン~」
ガイターさんが吸血鬼に向かい突進を始めた。
だが、途中で体がガクリと崩れ動かなくなってしまった。
「う、う~、ファン・・」
苦しそうな声を絞り出すガイターさん。
「ハハハ、バカな魔神め。乾杯用のワインには強烈なしびれ薬が入っていたのだ。一口でいいものを、ひとビン飲み干しおって、いくら魔神といえど10日は動けまい」
そう言いながら、吸血鬼はファンさんの手首をつかみ高く差し上げた。
「ふ~、やはり暗黒魔女。特別な血の匂いがする。なんともいえぬいい香りだ。うふふ」
不気味な舌を口から出し、ファンさんの首をベロリとひとなめしたあと、テーブルにファンさんを横たえた。




