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恐怖の一夜 ④

「おい、ふざけんでねぇ!この娘っ子になにしただ!」

 操り人形のようにされた女性を見たガイターさんが、机をドンっと叩いた。

「ガイターくん、静かにしたまえ、やりあいたいのならそれも結構だが、魔族同士まずは意見を交わそうではないか」

「ガイター、とりあえずは」

 ファンさんが手を軽くかざし制する。ガイターさんは不満気な顔で、運ばれたワインのビンの先を指でピシッととばし、ゴクゴクとラッパ飲みする。

「この娘は?・・」

 ファンさんが改めてヴァンパイアに問う。

「ほほう、私のコレクションに興味がおありかね。この娘はね、100年ほど前に、とても有名だった女優だよ。見てみたまえ、わたしのおかげで当時と変わらない美しい姿をたもっている。わたしのパペットとして永遠の命と美を約束されたのだよ」

「悪趣味ね」

「ほう、理解してもらえぬかね。ではこれはいかがかね」

 ガオゥ!

 獣のようなうなり声をあげた吸血鬼。その声に呼応してぞろぞろと大広間に集まる女性たち。60~70人くらいはいるようだ。

「みたまえ、この華麗なる美の共演。だがね、近年私は趣向を変えたのだよ。ここ最近のコレクションはこの女たちだ」

 吸血鬼の指さす先にいる一塊の女性たち。よく見ると、似てはいるけど人とはどこか違う。遥かに美しさが超越している。ただし、うつろな表情は周りと同じだ。

「ふふふ、最近はね、エルフや妖精など、人と一線を画す者たちを集めだしてね、ハハハハハ、そう、このコレクションに魔女があったら、見栄えが一段と増すだろうねえ」

 えっ!こいつ、ファンさんを狙っているのか?大変だ!

「わたしのコレクションの素晴らしいところはね、美をめでるだけではないということだよ」

 そう言ってバッと立ち上がった吸血鬼は、一人の女性の腕をグッとつかみ、その首筋にグサッと牙を入れ、血を飲みはじめた。なんどかゴクッゴクッと血液が吸血鬼ののどを通る音がする。

 なんというおぞましさ、僕は異常としか思えぬその光景に吐き気を催した。

やがて吸血鬼が牙を離すと、血を吸われた女性は床にバタッと倒れた。

「ハハハハハ、その女も、ひと月もすれば血が増え自然と元の人形へと戻るのだ。美をめでるだけではない、このとおり、わたしの大事な食糧にもなるのだよ」

 大きな高笑いをあげる。こ、こいつ・・

 そこへ、スッと立ち上がるファンさん。目つきするどく刺すような視線でをヴァンパイアをにらむ。

「最低ね」

 その言葉にピクっと反応する吸血鬼。

「最低だと、どこの口が言う!お前たちに比べたら、わたしなどかわいいものじゃないか。わたしはこれでも女たちを殺さず大事に飼っているのだよ。お前たちはなんだ、国まで滅ぼしておいて、お前たちがどれほどの虐殺をしたのか棚にあげるつもりか!」

「・・・」

「どうだ、反論できるのならしてみるがいい」

 一瞬、うつむいたファンさんではあったが、すぐ顔をあげた。そこには悲しみを含んだ表情ではあったが、なにかを決意したような瞳があった。

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