恐怖の一夜 ③
森を進む。無言で進む。
大木が立ち並ぶその間を縫うように進む。
ホーホーとフクロウが鳴き、夜の森の不気味さをいっそうあおる。
たいまつの灯りですら、闇に塗りつぶされそうな、黒く暗い森。
1時間近くは歩いただろう、目の前に一軒の石造りの大きな館が現れた。
「こんなところに館が・・」
館といってもかなり大きく、半分お城のような大きさだ。こんなきちんとした道もない森の中に、なぜこんな立派な建物があるのか。
ギィ~、ガコン。
僕たち3人が、家の壮観を見ていると、正面の大きな玄関がいきなり開いた。
「来いということね、じゃあ行きましょうか」
先頭を進むファンさん。怖くないのだろうか。やはり魔女と言われるゆえんか、人とは違うのか。
広い廊下の両側には、ロウソクの燭台が定間隔についていて、火がともっているところを目印に進んでいく。
眼前に大広間が見えだしてきたそのとき、
「どうぞ、入りたまえ」
と、男の大きな声が響いてきた。いきなりの声だったのでビクッとしたが、ファンさんもガイターさんも平気な顔をして奥に行く。僕も後ろをオロオロしながらついて行く。
広間は絢爛豪華に作られていて、中央に大きく長いテーブルがある。そのテーブルの一番奥に座っていた男が立ち上がった。
「わが屋敷へようこそ、今宵の素晴らしいゲスト、暗黒魔女ファン・エレート、魔神ガイター、あと一人は・・人間の男か、くだらん。まあよろしい、皆こちらへかけたまえ」
その男の指示された席に近づいて座る。
黒づくめのタキシードに身を包む大柄の中年の男。髪を後ろになでつけ、その顔は青白く薄く笑う顔が不気味だ。目が赤く染まっていて恐怖を増大させる。
「美しき暗黒魔女、今日はなにゆえ、ここへ参られた?」
「そうね、夜風に導かれたとでも言っておこうかしら、ヴァンパイアさん」
ファンさんの言葉に、薄く笑っていた男が喜んだようにニタリとする。ニタリとした口からのぞくキバのような二本の歯。怖いしか言葉が浮かばない。
「ほう、さすが暗黒魔女、造詣が深い。吸血鬼をご存じか。今夜は楽しめそうだ」
きゅ、吸血鬼!こ、こんなのと一緒にいて大丈夫なんだろうか・・
「おお、失礼した、先ずは乾杯でもしようではないか。飲み物でも運ばせよう」
吸血鬼が手をパンパンと叩くと、メイドのような女性がグラスとワインボトルをトレイに乗せてあらわれた。
そのメイドのような女性、どこかで見たことがあると思ったら、先程の幽霊のような女性であった。しかし見たときと違って体が発光しておらず、人間のようである。そういえばファンさんは本体はどこかにいると言っていたがこの娘が本体ということなのか・・
ただ、その本体と思われる女性も、うつろな目で自我がなく人形のように見えた。




