恐怖の一夜 ①
出発してから1か月はたったであろう。
今のところ旅路は順調だ。道のりも半分くらいは到達したのではないだろうか。
この付近には宿場がなく、今日は野宿で夜を明かすことにする。
夜の寒さは気になるわけではないが、灯りがほしく、たき火を行う。
天を見上げると満天の星々。闇の静寂をやぶる虫たちの声。ときおり、その虫たちの声をかき消す、たき火のはぜる音。
夜のとばりの中、三人で火を囲み、たわいのない話をする。
火にはヤカンがかけてあって、湯が湧いたらコーヒーを飲む予定だ。
「ライスっち、そろそろいいんでねが?」
「じゃ、じゃあやりますか」
僕は馬車からポケットに入れて持ってきた大量のニンニクを取り出した。皮をむき、オイルをぬって串に通したものを地面に刺し、たき火であぶる。
焼きニンニクが食べたいというので、用意した次第である。
「楽しみだぁ」
ガイターさんはにっこりして焼けるのを待ち焦がれてる。
しばらくすると、ニンニク特有の香ばしい匂いが、あたりにたちこめる。
ファンさんは、座っていた位置を変えた。できるだけ風上のほうに移動して、匂いの直撃さけているようだ。
「もう、いいべか?」
「そうですね。いい色に焼けてますよ」
どれどれ、と串を手にし、たまんねえだ、と言いながらムシャムシャとニンニクをほお張るガイターさん。
「ほれ、ファンもライスっちも遠慮しねえで食べたらいいべ」
まだ数本、地に刺さった串を指さし、ガイターさんが勧めてくる。
「わたしは大丈夫よ」「僕もです」
困ったような笑みで、やんわり断るファンさんに同調する僕。
ヤカンに湯が湧いたので、コーヒーを作り、僕も匂いの直撃を避けるためファンさんのとなりに座る。
「どうぞ」
カップのコーヒーをファンさんへ手渡すと、一瞬においをかいだだけで、
「アルメティオね、いいにおい」
と、すぐ銘柄を当ててくる。
「さすがですね。この前に寄った街で、こっそり買っておいたんです」
と、言って彼女を見た。
右手でカップを持ち、軽く添えられた左手。きちんと伸ばした背すじ。足も崩さずきれいに揃えている。ゆらゆら揺れる、たき火の炎に照らされたファンさんは幻想的なまでに美しく見える。
そんなときファンさんが、なにかに感じたように辺りを見回した。
そして、一点を見つめる。その視線の先にあったのは、ゆらゆらしながら少しづつ近づいてくる白いかたまり。
「幽霊かしら?」
ポツッと彼女がそう口にした。




