悲しき魔神と魔女 ③
「けが人のオラとレーカーの死体はしばらくして故郷に戻されただ。目が見えねえからどこにいるか分かんなかったども、ベッドに横にされてで、そこにファンの声が聞こえてきただ」
「ガイター、わたしね・・戦場から戻った村の男たちに乱暴されちゃったの・・あいつら、レーカーとガイターを敵の真ん中に残してきたって笑ってるのよ・・わたし・・大勢に服を脱がされて怖くて怖くて・・それでね、目覚めちゃったんだ・・魔女の血が・・」
「あ~、あ~、ファン、オラ・・オラ・・」
「気がついたら男たちの死体が目の前に散らばっててね・・わたしもうダメ・・」
「ファン~、ファン~、すまねえだ、オラ・・あああ!」
「そんとき、ファンが呪文みてえなの唱えて、オラの包帯巻きの目に手をあてだだ。後からわかったが、あれは魔女の呪文で、自分の一部を犠牲にする代わりに他者を救う術だど。だからファンは今も片目がみえねえはずだ。自分の片目犠牲にしてオラの目を戻してくれただ」
「しばらくして視力が戻ったオラは、ベッド飛び起きてファンを探しただ。すると、街の北の方角が火災になってて、そこさ行ったら、あらゆる魔術を使って、街をこわし、樹木を払い、人々をあやめるファンの後ろ姿が見えただ」
「オラはファンを止めようと後ろから声をかけただ。だども・・」
「うるさい!わたしに近づくなーー!」
「振り向いたファンの顔は尋常じゃなかっただ。もう人じゃなかった。怒りと悲しみで我をなくして、血の涙をダラダラとたらし、オラを睨みつけただ」
「まあ、その眼力に感化されたんだべな、オラの魔神の血もその時に目覚めただ」
「うおーーーー!」
「オラの筋肉共がバンバンふくれ上がり、無意識の中、無我夢中で走っていただ。オラの足は、オラの体を北の国にはこんだだ。ファンの愛したレーカーを殺した敵の国。そこでオラはファンとおんなじように、生まれた新しい力で、その力の限り、全てを破壊してっただ」
「ふっと気がついたオラは、茫然自失のまま、うろうろさまよい、あの神殿を居とし、いつもファンのことを案じてただ。あんなところでも、時折はうわさ話が入ってきてて、まだ正気に戻らねえのかと悲観にくれてただ。オラが会いにいけばファンはレーカーのことを深く考えちまう。だから会いに行かねで、じっと我慢してただ」
「オラもファンも大勢の命をあやめちまったのは間違いねえ、死んだら地獄行きだ。だどもその時までは・・」
ふーっと息を吐くガイターさんは優し気な眼差しを僕に向けた。
僕は泣いていた。怖ろしい魔女や魔神だと、人の言い伝えに踊らされ、うわべだけで真実を探ろうとしなかった自分の愚かさに、そして魔神と暗黒魔女の悲しい半生に泣いた。
「オラ、ファンが、昔の平穏だったころの姿でオラのとこに来てくれて、天にも昇るくらいうれしかっただ。それがライスっちの影響かどうか分かんねえ。どうかそれが分かるまで迷惑かもしんねが、もうちょっと旅につきあってけろ」
僕は涙目の魔神の手を握りしめ、無言でうなずくしかできなかった。




