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僕ができること ③

 かれこれ1時間は待っていただろう。職員から「陛下が戻られました」と報告があり、この応接室に、陛下と車いすに乗せられた老婆が入ってきた。

「こちらは、わたくしの祖母でございます。現在はミスーレ帝国の業務からは引退しておりまして、宮殿の隣にある別棟で余生を送られております」

 ソシミール陛下から老婆の紹介を受けたので、僕たちは立ち上がって礼を行う。

「どうぞ皆さん、席にかけたままで楽にして下さい。わたくしも足が悪いので、このままで失礼させていただきますよ」

 若い時はさぞ美しかったであろうと思われる、優しそうな顔をした老婆は言葉を続ける。

「わたくしジールトン・サダングックと申します。ソシミールの祖母にあたります。先々代の皇帝の妃ではありましたが、現在は全ての職責から退いておりますの」

 お年の割には口調がハッキリしていて、きちっとした性格を思わせる女性ではあったが、僕は拍子抜けをしていた。

 あきらかに術者ではないので、僕やミルフを戦える状態に変えるなど不可能と思ったからだ。だがこちらの思惑を置いて、ジールトン妃は話を続ける。

「孫のソシミールから、おおよその話しは聞いております。こう見えて、わたくしはその方面の研究家でもありますの」

 研究家?意外な方向から話がやって来た。

「まずは、そちらの小さなボクちゃんのことからね」

 ジールトンは目をキリっとさせ、ミルフのことを見つめる。

「長くなるので要点だけ言いますが、狼男が月を見ると変身するのは、月からはイプクロス波という特別な波動が出ていて、変身する際は、その波動の作用が必要不可欠なのです。すなわちイプクロス波を放出する物質を身につけていれば、狼男の因子をもつ者は、いつでも変身が可能ということになるのです」

 想定外すぎたその説明に、誰もがあっけにとられている。だが、ファンさんがおそるおそる質問を投げかけた。

「その、なんとか波というものが出ている物というのは、この世に実在するものなんですか?」

「ええ、ちゃんと所在が分かっているものがあります。ここから南に10日ほどかけて移動すると、となりの国に出るのですが、その国の国宝となっている、月のかけらという首飾りは、実際に月の破片でできているようなのです。その証拠に、アサガオという植物の仲間で月顔という月夜でしか咲かない花が、その首飾りをそばに置くと昼間でも咲きます。これは、イプクロス波をその首飾りが放出しているからなのです」

 このジールトンという女性はいったい何者なのだろう。たぶん今の話しは学術者だって思いもよらないことなんじゃないだろうか。ただの妃というわけではなさそうだ。

続けざまにファンさんが質問を投げかける。

「その、月のかけらという首飾りは貸していただけるものなのでしょうか?」

「となりの国は、このミスーレ帝国と友好関係にあります。わたくしが紹介状を書きましょう。そして、あなた方が魔物の島へ平定を取り戻すために行くと言えば、喜んで貸してくれることでしょう。なぜなら、となりの国も魔物の襲撃にはたいへん頭を悩ませているのですから」

 ミルフは目を輝かせて、「ママ、となりの国へ行って首飾りを借りようよ。ボクはみんなのために力になりたいんだ」と言っている。

 そんなミルフを優しい目でファンさんが見つめる。

「そうね、ぜひ紹介状を書いていただいて借りにいきましょう。ミルフ、一緒に頑張りましょうね」

 先ほど、『リーダーである僕の決定です』と言った僕の言葉がきいているのか、もうファンさんは反対の姿勢を見せることはなかった。


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