僕ができること ①
「陛下、あの魔女たちが言っていた、小魔島に行くための船をお貸しいただけますでしょうか?」
ファンさんはペーリーさんを救出すべく、早々に動く気だ。
「ええ、それは全然、お気になさらずにお使いくださって結構なのですが・・」
返事をする陛下は、僕の顔をチラリと見ると、躊躇したような返事をする。
「分かってます陛下。今回はライス君は、ここに残ってもらうつもりです。小魔島は、わたしとガイターだけで行きます」
「ファンさん、ちょっと待ってください!二人だけで行くってどういうことですか?!」
一方的に決めつけられ、僕は憤りを隠せない。
「ライス君、はっきり言うわね。今回、ライス君とミルフは足手まといなの。申し訳ないけど、ライス君がわたしと一緒にあちこち旅をすることになったのは、わたしがそそのかしてしまったから。それは後日きちんと謝るつもり。でも、今回は連れていけない。もし戦うことになったら、わたしもガイターも、自分のことしか面倒みられないと思う」
決してキツい言い方ではなかったが、役に立たないという現実を突きつけられ、なにも言い返せなくなってしまった。でもはたから見るとそのようになるのだろう。だからソシミール陛下は僕をチラチラ見たのだ。
「ママ、ボクも残るの?ボクは、ママとガイターおじちゃんと一緒に行く!」
僕が心で思っていたことを代弁するかのように、まだ子犬の姿のままのミルフが叫んだ。
ミルフは先ほどの戦いで、氷結の魔女に体を氷漬けにされていたのを、ガイターさんが抱えて氷を指で弾き飛ばし、冷たい戒めから体を解放された直後である。
「ミルフ、いい子だからママの言うことを聞いて。あの魔女たちと戦うとなると、あなたは弱すぎるの。せめてその子犬の姿から狼男に自由に変身できるなら考える余地はあるけれど、月の光がないと狼男になることはできないでしょう?」
ファンさんの言葉に、子犬のミルフは、キュワーンと悲しそうに一声吠えた。
ただミルフの場合は、まだ考える余地があるだけいい。一度しか見たことはないけれど、確かにあの狼男の姿に自由に変身できるならば、スピードやパワーで魔女たちを上回ることが出来るかもしれない。
だが、僕にはその余地すらない。出来ることといっても、鬼のマントで身を隠すくらいしかない。それすら、さっきみたいに、僕の気配をマース・モケナガンに悟られついて来られたように、同じことがおこったら僕には身を守ることはもう出来ないのだ。
「わたしも小魔島に行くにしても、あのマースという魔女と、敵対となるのかどうかは分からないの。ただ、ペーリーだけは絶対に取り戻すわ。あとは、あの手下の魔女たちをなんとか出来ないかと思ってる」
「んだな。あのマースっていう魔女に、氷結の魔女も、爆動の魔女も、ただ操られているみてえだった。さっき戦ったときに、あいつら、ひと言もしゃべらなかったべ?!洗脳されているみてえだぁ。特に爆動の魔女はオラの妹でもあるみてえだから他人事ではねえだよ」
ファンさんとガイターさんは、僕とミルフをさとすように話しているが、確かに二人にとっては、血族が絡む事態となってきているのだから、小魔島に行く意義は僕などよりもはるかに深いだろう。
ただ、僕としても、このままここで待って、ペーリーさんの無事を祈るだけしかできない立場になるということは、大きな葛藤を抱えることになるのだけれど。




