対決の序章 ③
マースが二人の娘を従え僕たちの前に立ちはだかった。この三人の魔女は親子だけあって顔つきが似ているが表情は三者三様である。
向かって左側の背が高い氷結の魔女は、無表情の青い顔で、なにを考えているのか分からない感じだ。そして右側の爆動の魔女は、たくましそうな体を、赤を基調とした革鎧に包んでおり、これからの争いを楽しみにしているような笑みを浮かべている。
そして真ん中にいるマース・モケナガン。その堂々としたたたずまいは、魔女の中の女王といった雰囲気をふりまいている。
いったいこの魔女たちは、ここになんの目的があってここに来たのだろうか。単純に、娘であるファンさんに会いに来たというわけではなさそうだ。
そもそも、昨日の末席の賢者の話しでは、マース・モケナガンは、魔王のジークラーが支配する魔物の島にいることになっている。そして、僕たちはこのミスーレ帝国から正式に魔王退治の依頼を受ける予定になっているのだ。
普通に考えれば、魔王の仲間と思われるこのマースという魔女は敵になるところなのだろうが、この国の筆頭賢者がマースと通じていた状況から、なにが本当のことか訳がわからなくなっている。
そこへ、マースの視線が近くにいたガイターさんに向けられる。
「あなたがガイターね。はじめまして。あなたの父親である魔神ライアーンより体が一回り大きいわね。頼もしいわ」
「そりゃどうも。あんたがファンを捨ててった、おっかさんけ。よくもまあ、平気な顔して会いに来られたもんだべな」
「まあ、ずいぶんなご挨拶ね」
腕を組んで憮然とするガイターさんに、マース・モケナガンは薄く笑って受けながす。だがガイターさんは憮然とした態度を緩めることはない。
「さて、もう茶番は終わりにして、目的を話してけろや」
「そうね。あなたたちが魔物の島に到着したら、合流して話すつもりだったけど、まあ、隠さないで話してあげましょう。わたしはね、あなた達を仲間にして、憎きジークラーを倒すつもりなのよ」
「へ?」
「わたしたちの敬愛する魔王様は、ジークラーによって殺されたのよ。そしてその勇者ジークラーが魔王を名のっている。こんなふざけた話など許せないわ!」
マース・モケナガンの体は怒りに震えていて、憎悪の炎が今すぐにでも吹き上がりそうである。
だが、その怒りの感情をすぐに消したマースは、元のように顔に笑みを浮かべた。
「フフッ、はしたなくてごめんなさいね。あと一つ目的があるのよ。それはね、イタズラ娘にしつけを教えるため、お仕置きをしに来たの」
その言葉と同時に氷結の魔女が、ペーリーさんの後ろに回り込み、ペーリーさんの手首をさっとつかむと、その小柄な体を持ち上げた。
その状態のペーリーさんのところに、マース・モケナガンが歩み寄る。
「あなたがペーリー・カーンね、かわいい顔してるわね。あなた以前にジークラーとパーティを組んで魔王様を倒しにいったでしょう。まあ、あなたは逃げたらしいけど、許されないことしちゃったの分かるわよね。おいたが過ぎる娘はこうよ」
マースは自分の唇を、いきなりペーリーさんの口に被せた。
「んーー!んーー!」
ペーリーさんは、目を見開いて、体をビクビクさせている。なにをされているのか分からないが、反応がヤバすぎだ!
いつの間にか、ファンさん、ガイターさんの目の前には、手出しをさせないとばかり爆動の魔女が立ふさがっていた。




