離脱の途中で ②
意外な人物の登場に驚きを隠せず、なにがおきているのかを確認するため少し近寄ることにした。
すると、ファンさんに見えていた人物は、どうやら違う人だと分かった。だが見間違えるくらいなので、かなり似ている。目の前の人物は、ファンさんより少し年をとっているように見えることと、目つきの鋭さが際立っている。
また、服飾は魔女の様相であるが、ファンさんよりも、こちらの人のほうが派手で色気に満ちている。紫を基調にした服で、足や胸の露出が目立っているのだ。
「それでは、人形使いの3兄弟を倒したというパーティが宮殿にいるというわけか?」
目の前の女性は、明らかに筆頭賢者よりも上からの目線で話している。それに対し筆頭賢者は、うやうやしく返答を始めた。
「ははっ、さようでございます。マース・モケナガンさま」
「まあ、あんな使い走りにもならぬ雑魚を倒したからといって、なんの意味もなさぬがな。やはり、わたしが直接会って、実力のほどを確認したい」
「そ、それは、・・マースさまと、わたくしめが通じていると分かってしまうと、これまで策してきた労が水のあわに・・」
「ふふっ、筆頭賢者の地位にある、わが身がかわいいか」
「・・・」
聞こえて来た話を頭の中で整理する。
とにかくソシミール陛下が危惧する通り、筆頭賢者が外部の何者かと通じているのは確実となった。そして、その正体不明の人物は、僕たちのパーティに興味をもっていることが分かった。
さて、この人物は誰であろう?
その人物を凝視しながら、昨日、宮殿の応接室で、末席の賢者から受けた会話を思い出す。
マース・モケナガン!いま会話に出て来たその名前!確か昨日もその名前を聞いた記憶がある。そしてファンさんと似た容姿・・
この人物は、ファンさんの母親!ボクの頭の中は、昨日今日の情報の中から、結論をそう結び付けた。
まじまじと相手の顔を見るが、間違いないと見てよさそうだ。
そのとき、その相手の魔女が僕のほうをにらんで声をはりあげた。
「そこにいるのは誰ぞ!」
いきなりの怒声に、心臓がドキッと跳ねた。気配を悟られたのか!
魔女は目をつり上げてこちらを見ているが、ファンさんに似ている顔立ちだというのに、その迫力と恐ろしさはファンさんには持ちえないものである。
だが、たまたまだろうが、僕の後ろの林の中からイタチのような小動物が這い出てきて、その場を横切った。
それを見た魔女は、フフっと笑い、顔を筆頭賢者のほうへ向けた。
「そちは、そのパーティをどこか宮殿の広間にでも集めておいてくれればよい。わたしは、お前と無関係をよそおって宮殿に侵入し、我が娘とその仲間に会いに行こう。ほんとうは、魔物の島にパーティが到着してから会う予定であったが、どうにも待ちきれない。よろしくたのんだぞ」
筆頭賢者は、魔女の胸に顔をうずめられ、押さえられている。
「ああ~、マースさま、お任せください!」と、悶えている老人の筆頭賢者を、ニヤリとした顔で見ている魔女。
その風景は、とてもおぞましく、怖ろしいものであった。




