離脱の途中で ①
地平線は赤みを帯びて、今から太陽が昇り出すことを告げている。もう明け方になるようだ。
僕は、荷物を詰めたバッグを持つと、鬼のマントで身を包み、体を透明と化す。
このパーティとも今日でさよならだ。出来るだけ人目につかないよう、そっと出ていくつもりである。
部屋には置き手紙を忘れずに置いた。ファンさんが責任を感じてしまわないように、手紙には別れた恋人のところに行くと書いた。もちろんそんな人物はいないのだけれど、こう書いておけば、みんな呆れることだろうし、同情する意見は出ないはずだ。
さて、この来賓館を出ようと廊下を歩いているのだが、どこをどう行けば外にでられるのか分からない。
透明のままさまよっていると、どうやら来賓館から宮殿につながる通路を知らぬ間に歩いていたようで、たぶんここは宮殿のどこかのようだ。
こんな陽が昇る前でも、掃除をするメイドをあちこちで見かける。鬼のマントで姿は消しているものの、足音は消えないのでメイドのそばを歩くときは緊張する。
広い廊下を進んでいると、前方から、荘厳な衣装を身にまとった一人の老人が歩いてくる。
その老人は、透明化している僕の目の前を通り過ぎると、近くを掃除をしていたメイドに挨拶をされた。
「筆頭様、おはようございます。お早いお目覚めで」
「うむ、年寄りは朝が早くてのう。まあ、ちと外を散歩でもして体を慣らすとしよう」
丁寧に頭を下げるメイドに、手を上げて応えた老人。そうだ、この老人は外を散歩すると言っていたから、あとをついて行けば外にでられそうだ。
少し離れたところから、様子をみながらついて歩いて行くと、案の定、正面玄関ではないが、裏口用のドアが見えて来た。
このあたりにも掃除するメイドがいて、その老人が脇をとおると、「筆頭様、おはようございます」と挨拶をされている。
筆頭様・・そういえば昨夜、ソシミール陛下が部屋に来て、筆頭賢者の様子がおかしいと相談を受けたっけ。よく見ると、この老人が羽織っている上着は、賢者が着用する賢者のローブだ。どうやら、ソシミール陛下が言っていた筆頭賢者というのはこの人物のようだ。
もうここを出ていく身であるし、関わり合いにならずそのまま出て行こうとも思ったが、約束をしたということが引っかかり、そのまま裏口を出る賢者のあとをついて行ってしまった。
裏口を出て、芝の上を少し歩いた先は林になっている。賢者はその林の中をズンズンと進んでいく。これが朝の散歩のコースなのか?とてもそうは思えない。
林の奥に少しひらけたところがあって、賢者はそこまで行くと足を止めると、ほぼ同時にそこに現れた女性があった。
透明になっているとはいえ、あまり近くに寄ると気づかれそうなので、周囲の樹木の陰に隠れ様子を見ていたが、その女性を見て、驚きに声を上げそうになってしまった。
なんとそこにいたのはファンさんであったからだ。




