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受難 ⑩

 なんという受難の夜なのだろう。天文学的な確率で次々と災いがおきる。

 その場で背を向けたファンさんは腕で顔をぬぐっている。後ろから見ているので分からないが、これはやはり泣いているのだろう。

 僕は布団をソシミール陛下に掛けると、ベッドをおりてどうすればよいのか悩んだ。

 そんな僕のほうに、ファンさんはゆっくりと振り向いた。その顔は涙でぬれている。

「わたし、なにがなんだか分からない。ライス君って人が分からなくなっちゃたの・・」

 あんな場面を見られてしまったのだ。そう思われるのは当然だろう。ファンさんを泣かせてしまったという罪悪感が僕を包んで、どうしようもない気持ちにおちいってしまう。

「あ、あの、話し聞いてもらえますか?」

「話し?わたしに話すことなんてないでしょう?それより、陛下が恋人なのかどうかは知りませんけどベッドの上で愛の言葉でもささやいたらどうなの」

「そんな、恋人なんかじゃありませんよ!」

「それじゃ、なお悪いわ!遊びでこんなことする人だったなんて!」

 ファンさんのほほをポロポロと涙が伝う。こんなときに不謹慎だけど、その表情もかわいいと思ってしまった。僕はこの人が好きだったんだなという思いがじわっと沸き上がる。

 そのまま彼女はスタスタと歩いて、部屋を出て行ってしまった。

 一瞬、追いかけて事情を説明したほうがよかったかとも思ったが、もう完全に終わったという認識がまさり、そのまま立ちつくした。

 そんな状態の僕のところに、服を着たソシミール陛下がベッドをおりて来た。

「ライス様、このたびは、このようなことになってしまい申し訳ございません」

 深々と頭を下げているが、このときの僕はなんの感情もわかなかった。

 ただ、早く部屋を出て行ってほしいという願いは通じたようで、なんども頭を下げられながらもドアの外へと消えて行かれた。


 静寂の中、応接椅子に座って混乱する頭を整理することに努める。

 そこで、そもそもの根本を考えたとき、僕がこのパーティの一員になって旅をしているのがおかしいのだという事実に行きつく。

 最初は、親善使節団の一員として、となりの国へ向かう途中に、暗黒魔女のファンさんと出くわして、そのままズルズルと旅を続けるような状態になっているわけだ。決して自分で望んでの旅ではなかったんだ。

 

 もう、ここでリタイヤでいいかな・・


 そうだよな、それが最善だと思う。考えたら僕以外は、高度な魔力をもった人物ばかりで、今後だって戦いの話しになれば、僕は一つの役にもたたないわけだし。

 まあ、故郷ではそれなりに名があがった調理人だし、一人になっても、それなりにどこででも生活するだけのお金は稼げるだろう。

 元々が、親兄弟もいない天涯孤独の独り身だ。その状態に戻るだけなんだ。

 自分自身を納得させようと、その場で意思のない笑い顔をつくったが、意思に反して涙が一筋流れたのには驚いてしまった。

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