受難 ⑨
僕は真っ白な灰のように心は燃え尽き棒立ちとなった。始まってもいないのに終わってしまったファンさんとの関係。いったいこれはなんなんだ。
気が抜けてしまい、頭が自然にガクッとたれたときであった。
「あのー、ライス様。大丈夫ですか?」
後ろを振り返ると、鬼のマントを手にしたソシミール陛下が心配そうな顔をして立っている。
あ~、そういえば、陛下が透明になってこの部屋にいたっけ・・すっかり忘れてた。この人は、今の様子を一部始終見ていたはずだ。僕の失恋模様の生き証人ってとこか。そんなのどうでもいいことだけど。
とにかく一人になりたい。もう陛下にはさっさと部屋を出て行ってもらおう。
「陛下、ご覧のありさまです。このような男のところにいつまでもいないで、早くお帰り下さい」
「で、でも、わたくしライス様が心配で・・」
ほおっておいて欲しいのに、その場にとどまる陛下。帰れと怒鳴ることも出来ないしどうしよう。
その時、僕の頭に陛下がすぐにこの部屋を出ていく案が浮かんだ。
「じゃあ陛下、僕と一緒にベッドで寝ていかれますか?出来ないでしょう?でしたら早々にお引き取り願います」
半分おどしのようなセリフだが、こうでも言わないと出て行ってくれなそうだ。
驚きの表情を浮かべた陛下は、赤くなってモジモジしはじめると、歩を進める。
やっと一人になれる。そう思ったが、陛下の足は、ドアではなくベッドに向かった。
「こ、これでよろしいでしょうか?」
布団の中に潜り込んで、赤くした顔を出した陛下が僕にそんなことを言う。
「ちょっと、なに考えてるんですか!やめて下さい!」
まさか、さっきの言葉を鵜呑みにするなんて、まったくもう!
僕は、陛下に掛かっている布団をバッとめくった。
うわー!
なんと、ソシミール陛下は下着姿で丸くなっていた。布団の中で服を脱いだようだ。
「あ、あ、あ、あ、あ・・」
目をつぶって布団をかけてあげればよかったのだが、あまりのことに言葉が出ず、その姿を凝視してしまった。
「わたくし、このようなことは初めてで。一緒に寝るということは、このような関係をお望みと思ってよろしいのですよね?」
なんでそういう方向にいくんだよ!とても皇帝陛下の言葉とは思えない。もうイヤだ!
「いいから早く服を着て下さい!」
僕は、陛下が横たわるベッドに上がり、陛下の脱いだ服を手にして渡そうとした。
ちょうど、その時だった。
ドアがバタッと開けられ、一人の人物が部屋の中に飛び込んできた。
「ライス君、いる?!さっきはごめんなさい。わたし訳も聞かずに悪かったわ!ちゃんと話しを聞くから・・・」
その人物とはファンさん。なんか謝るために戻ってきたようだが・・
ファンさんは、ベッドのところまで来て僕を見た。いや、僕を見たと言うよりも、僕と下着姿のソシミール陛下がベッドの上に一緒にいるところを直視してしまった。
「こ、これは・・」
ファンさんが呆然とつぶやく。
僕は、自分自身がこの世界から消えてなくなってくれ!と切に思った。




