受難 ⑧
いったい今の嵐のような出来事はなんだったのであろうか。だが今からおこる出来事は嵐どころではない、台風発生の予感を感じさせる。
その台風の目が、誕生するかもしれない場所を僕はチラっとのぞく。そこはファンさんが隠れているカーテンのところだ。
明らかにペーリーさんが出て行ったのは分かっているはずなのに、カーテンが閉まったままで、ファンさんのでてくる気配がない。
「あ、あの~、ファンさん・・もう出てきて大丈夫ですよ~」
おそるおそる、そちらに声をかけてみる。だが応答なし。怖い、怖すぎる・・。
だが、いつまでもこうしていられない。勇気をふりしぼりカーテンの前へ移動する。
このカーテンを開けると、実はファンさんは疲れていたため、ペーリーさんとの会話を聞かず寝てしまっていた!なんて都合のいい話しはないだろうな・・でも、涙を流して泣いているなんてことだったら、ファンさんがかわいそう過ぎる。早く開けなきゃ!
「カーテンを開けますよ~、いいですか~」
震える手でカーテンの布地をつかみ、ゆっくりと左右に開いていくと、予想に反し、ファンさんが笑みを浮かべて立っていた。しかしこの笑みは偽りだ。なぜなら、こめかみに青筋が立って、ピクピクと動いている。
「お久しぶりね」
軽く会釈をするファンさんの強烈なご挨拶だ。
「あ、あのですね、ちょっと誤解があるみたいで・・」
ここはきちんとした説明をして、ちゃんと納得してもらわないと、と思ったが、たぶん誤解といったセリフが琴線に触れたのだろう、今まま見たことのない詰め寄り方をしてくる。
「誤解?誤解ってペーリーが言ってたこと?!あれってホントのことじゃないの?!わたしね、ライス君とペーリーがそんな仲良くなっているの知ってたら、ここにこなかったわ!」
「そうですよね、おっしゃるとおりです。でもですね、僕、そんなにペーリーさんと仲良くしてるわけじゃないんです」
「じゃあ、ペーリーのお兄さんと会ったっていうのは作り話なの?」
「いえ、それはホントです」
「じゃあ、さっきのわたしたちみたいに、ベッドに並んで座ったっていうのは?」
「えーと、それもホントです」
「じゃ、じゃあ、キスの件はどうなのー!」
「あのですね、それも事実ではありますが・・」
「全部ホントのことじゃない!なにが誤解よー!」
いつも冷静沈着のファンさんが、人が変わったような怒り方をしている。まるで女子学生だ。
「わたし、さっきライス君のこと、ウソのつけない素敵な人って言ったけど訂正させていただきます。ウソつきー!」
ひときわ大きくウソつきと叫んだファンさんは、ジト目で僕を見たあと、ふんっと顔をそむけ、部屋を出て行ってしまった。
なぜ、なぜなんだ。あこがれのファンさんとの時間が一瞬の波にさらわれ、あとかたもなく消えてしまったのであった。




