受難 ⑦
もう、なんて言っていいのか分からない。これってイタズラなんじゃないかと思う。
とにかく、この状態をなんとかしなければ。
石のように固まってしまった体と心を、深呼吸で少しずつ解放する。
「ど、どうしてなんです・・」
たぶん、小さな声であったが、ペーリーさんが発した言葉に質問をすることが出来た。
「そう、やっぱり理由とか聞きたいよね!あたしね、今まで生きるために、結構無理してたのかな~って思っちゃってさ」
「はあ・・」
「小さいころから聖護院でつらい修行の毎日でさ、魔王征伐に行けば勇者のジークラーに裏切られ、帰って見れば聖護院を追い出され、仕方なく闇の組織で頑張ってさ、そしたら今度は聖護院から追われる存在になっちゃって、もう魔導士として誰にも負けない能力をつけなきゃ、なんて、いつも気を張っていたわけ」
「それは、つらいですよね。でも本当のつらさはペーリーさんしか分からないですけど」
「それなのよ、それ!今の言葉じゃないけど、ライスさんってすごく優しいじゃない。旅の途中で疲れてても、ごはん作ってさ、優しい顔でどうぞって出してくれて・・気を張って生きてないで、ライスさんの優しさに包まれて笑って過ごすって想像したらさ、なんかそういうことにすごく憧れをもっちゃったのよね」
そういうことか・・まあ、光栄なことではあるけれど、それは一時の気の迷いだと思う。ちゃんと言ってあげないと後々大変なことになりそうだし・・
「あのですね、ペーリーさん、とっても気持ちは嬉しいのですが・・」
僕が途中まで話すと、ペーリーさんが、僕の言葉をさえぎった。
「嬉しいって言ってくれてありがとう!そうじゃないかと思ったの。前にあたしのお兄ちゃんに会ったときに、ライスさんってウソが嫌いなのに、あたしと結婚してますって言ってくれたじゃない」
ちょ、ちょっと待って!この場でなにを言いだすんだこいつ!
「おまけに、あたしのお腹に赤ちゃんがいて、その父親は自分ですってウソついてくれてさ、ライスさん、あたしが故郷に連れ戻されるのがよほどイヤだったんだな~って思っちゃったの」
・・この人はわざとこういうことを言っているのだろうか。そうとしか思えない。だいたいそのあと険悪になったことを忘れてやしないか・・
なんどもファンさんが隠れているカーテンのほうを気にしてしまう。気のせいかカーテンがビリリと破ける音が聞こえた気がした。
目の前のペーリーさんは屈託のない笑顔でニコニコしている。たぶん十人に聞いたら十人とも可愛いという容姿だ。だけど、それとこれとは違う!ハッキリしなくちゃ!と思った矢先にペーリーさんが話し出した。
「ライスさんもいきなり告白されて驚いてるよね。でも、なんか真剣に考えてくれているみたいで嬉しいな。今晩もっとよく考えてくれる?まだ旅は続きそうだから答えはすぐじゃなくていいけどさ。じゃ、あたし部屋に戻ってみるから前向きに検討してね」
それだけ言うと、応接椅子から立ち上がって、そそくさとドアの方へむかい、そしてドアを出るときに「ライスさん、おやすみ!」と発すると同時に投げキッスをしてきた。
その「チュッ」という音は、部屋の隅々まで響くような大きな音であった。




