魔神 ガイター ⑤
「じゃ、ライス君・・」
「いえいえいえいえ、マヒワリ国なんてとんでもないですよ!ここからだったら2か月はかかりますよ。絶対行きません!」
ファンさんのセリフをさえぎり、思いっきり自己主張だ。はっきり意見をのべないと、このままずるずると行くことになりかねない。
「ライスっち、せっかくファンが誘おうとしてんのに失礼だべ?行かねえでこれからどうすんだ?」
「もちろん故郷に帰るんですよ」
「おめぇさん、嫁子供でも待ってんのけ」
「いえ・・・」
「じゃあ、病気の親御さんがいっとか」
「いえ・・・」
「んではなんだべ?」
「・・・」
うう、なんか追い込まれていくようだ。
「ガイター、ライス君もたぶんきっかけがなくて困ってるのよ。じゃあ、コインの裏表で行くか行かないか決めちゃいましょう!人生はギャンブル。なんか素敵じゃなくって」
ひー、ファンさんが妙な提案しはじめた~!べつにきっかけいりません!困ってもいません!
僕が断ろうとする前に、すでにコインがファンさんの指で宙にはじかれていた。クルクルっと丸い球体の軌跡が上下し、パシっと左手の甲に納まった。
「じゃあ、オラおもてだ」
「それじゃライス君は裏ってことね」
あっ、あっ、勝手に物ごとが進んでるー。
「それっ、あ~表だ、ガイターの勝ちね」
右手をすっと外したファンさんが、うれしそうにコールする。
「いえ~い、オラの勝ちだ~!南のマヒワリ国けって~い!」
ポケっとしている僕をしりめにハイタッチをする魔神と暗黒魔女。
な、なんなんだ。一体なんなんだ、これは。
「じゃ、せっかく決まったことだし、準備にとりかかりましょう」
神殿の中をルンルンと歩きはじめるファンさん。
くそー、波にのまれた~。もういい!魔神にいっぱいマリュフを採らせて腹いっぱいくってやる。
やけくそになって、そう思っている僕の耳元に、ガイターがそっとささやいた。
「すまねえな、ライスっち。もうちょっとだけ、我慢してつきあってくんろ」
そう言ってすっと前に進み出た魔神ガイター。
その大きな背中は見た目以上に強くたくましく見えた。




